第22話 いつもの席に座れなかった日
今日も頑張る、派遣さん。
お昼の時間になると、いつも同じ場所に向かう。
休憩室の入口を入ってすぐの、窓際の席。
ドアの入口が見える位置に、自然と座るようになっていた。
後ろから声をかけられるのが、少し苦手だから。
視界の中に入口があるだけで、なんとなく安心できる。
誰かが入ってくるのが分かるだけで、気持ちの準備ができる。
それだけのことなのに、その席に座ると、少しだけ落ち着く。
実際には、ほとんど声をかけられることはない。
それでも、なんとなくその場所がいい。
いつの間にか、それが“自分の席”みたいになっていた。
その日、
仕事が少し長引いて、休憩室に向かうのがいつもより遅くなった。
廊下を歩きながら、少しだけ足早になる。
ドアを開けると、いつもより人が多い。
少しだけにぎやかな空気の中で、
反射的に、いつもの場所に視線を向ける。
――あ。
そこには、三人組の女の子たちが座っていた。
楽しそうに話しながら、お弁当を広げている。
その光景を見た瞬間、足がぴたりと止まる。
一歩だけ、遅れる。
――あそこ、なんだけどな。
心の中で、そっと思う。
でも、もちろん声には出さない。
そのまま視線を外して、他の席を探す。
いつもと違う場所に座ることに、
ほんの少しだけ、ためらいがある。
理由はうまく説明できないけれど、
どこに座っても、しっくりこない気がする。
少しだけウロウロしてから、
一番奥の、端の席に目を向ける。
ひとつだけ空いている。
でも、すでに誰かが座っているテーブルだった。
一瞬だけ迷って、
小さく息を吸う。
――大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、
「ここ、空いてますか?」
声をかける。
顔を上げた人が、
「空いてますよ」
とやわらかく返してくれる。
その一言に、少しだけほっとする。
「ありがとうございます」
そう言って、静かに座る。
お弁当を広げながら、
どこか少しだけ落ち着かない気持ちが残る。
視線の端に入口がないことが、
思っていたよりも気になる。
背中の後ろが、少しだけ気になる。
やっぱり、いつもの場所がよかったな、と思う。
でも、
こういう日もある。
そう思いながら、箸を持つ。
ふと、
明日はもう少し早く来よう、と思う。
きりがいいところまで、と思って仕事を続けてしまったけれど、
あの席を取られるくらいなら、
少しだけ切り上げてもいいのかもしれない。
――明日は、ちゃんと時間通りに来よう。
そんなことを考えながら、
静かにお昼の時間を過ごす。
――やっぱり、あの席がいい。




