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第21話 更新の話をされた日


今日も頑張る、派遣さん。


 午後のフロアは、いつも通りの音に包まれていた。


 キーボードの音と、電話の声。その中に、自分の打つ音も混ざっている。


 変わらないはずの時間の中で、


 今日は、少しだけ落ち着かない。


 契約更新の時期だった。


 事前に、派遣会社からメールが来ていた。


 更新の意向を聞かれて、「更新でお願いします」と返信している。


 迷いはなかったはずなのに、


 こうして当日になると、胸の奥がわずかにざわつく。


 午後になって、派遣会社の営業さんが来ていると聞く。


 今日来ることは、事前に聞いていた。分かっていたはずなのに、なぜか少しだけ落ち着かない。


 部長と話をしているらしい。


 その間も、いつも通りに仕事を進める。


 画面を見て、入力して、確認する。


 やることは変わらない。


 それでも、


 ふとした瞬間に、意識がそちらに向く。


 ――今、話してるのかな。


 ――何を言われてるんだろう。


 考えても分からないことなのに、


 何度も同じところを行き来してしまう。


 キーボードを打つ指が、ほんの少しだけ遅くなる。


 時間が、いつもより長く感じる。


 やがて、


「終わったみたいですよ」


 そう声をかけられる。


 一瞬だけ、息が止まる。


 それから、小さく息を吸う。


 名前を呼ばれて、席を立つ。


 営業さんと会うのは、この会社に来たときの挨拶以来だった。


「お久しぶりです」


 そう言いながら、軽く頭を下げる。


 久しぶりのはずなのに、少しだけ距離を感じる。


 本当は、話したいこともある。


 ここでのこととか、


 少し困っていることとか。


 でも、


 今はそれよりも、


 更新のことが気になる。


「今回の件なんですけど」


 営業さんがそう切り出す。


 その言葉に、身体がわずかに固くなる。


 次の言葉を待つ。


 ほんの一瞬のはずなのに、


 時間が少しだけ伸びたように感じる。


「更新で進めさせていただきますね」


 その一言で、胸の奥にあったものが、すっとほどける。


 知らないうちに入っていた力が、ゆっくり抜けていく。


「ありがとうございます」


 自然と、声が出る。


 そのあとで、


「あとは、部長からも、よくやってくれてますって言ってましたよ」


 そう続けられる。


 一瞬、言葉の意味をなぞる。


 ――よくやってくれてます。


 その言葉が、少し遅れて胸に届く。


 静かに、広がっていく。


 思っていたよりも、


 ちゃんと見てもらえていたのかもしれない。


 そう思うと、胸の奥が少しだけあたたかくなる。


「そうなんですね」


 そう返す声が、ほんの少しやわらぐ。


 話はそれで終わって、


 席に戻る。


 椅子に座って、画面に向き直る。


 さっきまでと同じはずの景色が、


 ほんの少しだけ違って見える。


 キーボードに手を置くと、指がゆっくりと動き出す。


 さっきより、少しだけ軽い。


 ――まあ、いいか。


 心の中で、そっと思う。


 また、ここで続いていく。


 ――なんとかやれている気がする。


 その感覚を、確かめるように、もう一度胸の奥でなぞる。

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