第15話 ちょっと助けてもらった日
今日も頑張る、派遣さん。
午後のフロアは、いつも通りの音に戻っていた。キーボードの音と電話の声。その合間に、自分の打つ音も混ざっている。
声をかけられて、顔を上げる。
「これ、コピーお願いしてもいい?」
資料を受け取り、ページ数を確認する。それなりにある。
「はい」
立ち上がってコピー機の前に向かう。何度か使っているから、操作はもう分かる。
用紙をセットしてボタンを押すと、機械が動き出す。規則的な音が静かに続く。
そのまま画面を見ていたとき、ピッ、という音が鳴って動きが止まる。
表示を確認すると、紙詰まりの表示が出ていた。
――あ。
一瞬だけ手が止まる。
どうするんだっけ、と考える。前にもあった気がするけれど、細かい手順までは思い出せない。
とりあえず表示に従ってカバーを開け、中をのぞく。紙が少し引っかかっている。
手を伸ばしかけて、少し迷う。
そのとき、
「あ、それ詰まってます?」
後ろから声がする。
振り返ると社員の人が立っていた。
「はい、ちょっと……」
そう答えると、自然な動きで隣に来る。
「ここ、開けると取れますよ」
指で示された場所を確認し、言われた通りに開けると、詰まっていた紙がすっと取れる。
「ありがとうございます」
「大丈夫ですよ。これ、よくあるので」
軽く笑いながらそう言われる。
元に戻して、もう一度スタートする。
今度は問題なく動き出す。
紙が一枚ずつ出てくるのを、なんとなく見ているうちに、さっきまでの緊張が少しずつほどけていく。
コピーを受け取り、順番をそろえる。端をきちんと合わせ、ずれないように指で整える。
ホチキスを手に取り、角を確かめてから留める。
一度全体に目を通したところで、途中のページだけ向きが逆になっていることに気づく。
――あ。
小さく息をつく。
ホチキスを外してもう一度順番を整え、今度は間違えないように確認しながら留め直す。
さっきより少しだけ丁寧に。
できあがった資料を見て、小さくうなずく。
フロアに戻る途中、さっきの人の席の前で足を止める。
「コピーできました。さっきはありがとうございました」
そう声をかけると、
「あ、いえいえ」
顔を上げて、軽く笑ってくれる。
それだけのやり取りなのに、少しだけ空気がやわらぐ。
席に戻って画面を開き、キーボードに手を置く。
指が自然に動き出す。
さっきより、少しだけ軽い。
――まあ、いいか。
フロアに流れる音に、自分の音も混ざっていく。
――今日も、ちゃんとやれている気がする。




