第12話 会議に呼ばれなかった日
今日も頑張る、派遣さん。
午後のフロアは、午前中より少しだけ空気が動いていた。
キーボードの音に混ざって、紙をそろえる音や、椅子を引く音が重なる。
普段より、少しだけ落ち着かない。
誰かがファイルを抱えて立ち上がり、その動きが隣へ、またその隣へと広がっていく。
視界の端で、その流れをなんとなく追いながら、
画面に向かう。
今日の会議。
自分も関わっている案件の話だと、朝に聞いていた。
企画の段階から関わっている仕事だった。
最初に形にした案も、いくつかある。
画面の中に、そのデータが残っている。
だから、少しだけ気になっていた。
呼ばれるのか、呼ばれないのか。
その境目が、まだよく分からない。
――もしかしたら。
そんな気持ちが、ほんの少しだけあった。
「そろそろ行きましょうか」
誰かの声で、空気が動く。
椅子が引かれ、足音が重なり、ひとり、またひとりと席を立っていく。
その流れの中に、自分は入っていない。
キーボードに置いた手は、そのまま動かし続ける。
――呼ばれないんだ。
そう思う。
分かっていた気もする。
でも、やっぱり。
ほんの少しだけ、期待していた。
最後にひとつ、椅子のきしむ音がして、
フロアが、すっと静かになる。
会議室のドアが閉まる音が、少し遅れて聞こえてくる。
その音で、はっきりと分かる。
自分は、ここに残る側。
――派遣さんだから、仕方ないのかもしれない。
胸の奥が、少しだけ静かになる。
さっきまであった小さな期待が、ゆっくり消えていく。
画面に視線を戻す。
キーを打つ音が、さっきより少しだけ大きく響く。
人がいない分、音が広がる。
しばらくして、隣の席の人が小さく言う。
「こういうの、派遣さんは入らないこと多いからね」
その声に、ほんの少しだけ手が止まる。
画面に表示されたままの文字が、目に入る。
「……そうなんですね」
小さく返す。
理由は分かる。
機密とか、いろいろあるのだと思う。
それでも。
胸の奥に、小さく何かが残る。
――知っていた方が、やりやすいのにな。
そう思う気持ちも、ちゃんとある。
画面の中に、自分が触れた資料の一部がある。
この先どう使われるのかは、分からない。
会議の中で、どんな話になるのかも。
分からないまま、作業だけが残る。
それでも、手は止めない。
キーを打つ。
ひとつずつ、いつも通りに。
――ここでできることを、やるだけ。
そう思う。
どれくらい時間が経ったのか分からない頃、
会議室のドアが開く音がする。
足音と、話し声がフロアに戻ってくる。
さっきまでの静けさが、ゆっくりとほどけていく。
断片的な言葉が、耳に入る。
でも、全部はつながらない。
分からないままでも、仕事は進んでいく。
それが、この場所なんだと思う。
小さく息をつく。
――まあ、いいか。
完全に納得しているわけじゃない。
それでも、少しだけ受け止められている気がする。
キーボードの音が、またいつも通りに戻る。
――今日も、ここでちゃんとやった気がする。




