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第10話 お給料日で少しだけ優しい日

今日も頑張る、派遣さん。


 朝から、少しだけ気分がいい。


 席に座り、パソコンを立ち上げる。いつもと同じように画面が明るくなり、見慣れたデスクトップが表示される。


 そのまま、手を止める。


 誰にも見られていないのを確認して、そっと別の画面を開く。


 給与明細。


 数字を確認した瞬間、思わず口元がゆるむ。


 ――入ってる。


 分かっていたはずなのに、やっぱり少し嬉しい。


 画面を閉じても、その気持ちは消えない。


 今日は、お給料日。


 帰りに何を買おうか、なんとなく考える。


 それだけで、朝の空気が少しだけ軽く感じる。


 キーボードに手を置く。


 いつもと同じ音がフロアに広がる。


 でも今日は、その音が少しだけ軽く聞こえる。


 指先も、少しだけやわらかい。


 仕事をしながら、ふと周りの声が耳に入る。


「今月ちょっときついなあ」


「もうお金ないんだけど」


 そんな会話に、視線を落としたまま、ほんの少しだけ口元がゆるむ。


 社員さんたちの給料日は、二十五日。


 自分は、十五日。


 ほんの少しだけ早い。


 それだけのことなのに、少しだけ得した気分になる。


 ――しかも、ここ、前の会社より時給高いのよね。


 心の中で、そっとつぶやく。


 誰にも聞こえない、小さな自慢。


 ――ふふ。


 また、口元がゆるむ。


 そのまま画面に向き直る。


 数字を入力しながら、ふと気づく。


 今日は、肩の力が少しだけ抜けている。


 同じ作業のはずなのに、どこか余裕がある。


 そのとき、


「派遣の鈴木さん」


 部長の声が聞こえる。


 名前と一緒に、いつもの言葉。


 少し前なら、ほんの少しだけ引っかかっていたかもしれない。


 でも今日は、違う。


 顔を上げて、普通に返事をする。


「はい」


 それだけなのに、どこかやわらかい。


 仕事の説明を聞きながら、小さくうなずく。


 頭の中で、言葉がすっと入ってくる。


 ――今日はいい日。


 そんなふうに思う。


 また、周りの声が聞こえる。


「ほんとお金ない」


 誰かが笑いながら言う。


 その声に、思わず視線を落とす。


 笑ってしまいそうになるのを、そっとこらえる。


 ――今日は、ちょっと余裕がある。


 心の中で、そう思う。


 キーボードを打つ手が、いつもより少しだけ軽い。


 部長の声が、もう一度聞こえる。


「派遣の鈴木さん」


 その言葉に、ふと別の言葉が浮かぶ。


 ――お金さん。


 一瞬だけ、自分でおかしくなってしまう。


 視線を画面に落としたまま、息をこらえる。


 表情に出ないように、ほんの少しだけ口元を引き締める。


 それでも、少しだけ頬がゆるむ。


 名前に「派遣」はつくけれど、


 ――お金さん、ではない。


 そう思いながらも、また少しだけ笑いそうになる。


 今日は、少しだけ心に余裕がある。


 それだけで、見える景色が少しやわらかくなる。


 キーボードの音が、いつもより軽く響く。


 ――今日も、ちょっとだけ楽しい気がする。

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