4.違和感の正体 ( 前編 )
▶ ▶ ▶ ノルン視点
部屋に入った瞬間、違和感が走った。
あの森の奥で、肌を粟立たせた奇妙な魔力。
それが、なぜか彼女の周りにだけ濃く漂っている。
(……やっぱり、あの時の魔力はこの子から……? でも、なぜだ)
「……大丈夫?」
一歩、また一歩と近づくたびに、
空気が重くなる。
いや――違う。
重くなっているのは、空気じゃない。
(……圧されてる……?)
それでも構わず、
ベッドの傍にあった椅子を引き寄せ、腰を下ろす。
怯える彼女を安心させようと、
ゆっくりと手を伸ばした――その瞬間。
ドォン――ッ!!
「っ!?」
思考よりも先に、身体が動いていた。
危険だ、と。
本能が叫んだ。
気づいた時には、後方へ跳ね飛んでいた。
椅子が激しい音を立てて倒れる。
距離を取ったまま、低く構える。
無意識に、剣の柄を握りしめていた。
(……なんだ、今のは……)
少女を中心に、
空間が、歪む。
ミシミシ、と
世界そのものが軋むような音が響く。
壁が、波打つ。
いや、違う。
形を保てなくなっている。
頬を焼くような熱。
次の瞬間には、凍てつく冷気。
赤黒い火花が爆ぜ、
風が刃のように空気を裂き、
見えない重圧が、すべてを押し潰そうとする。
それらが、
混ざる。
ありえない形で、
ぐちゃぐちゃに溶け合っていく。
(……嘘だろ)
森で感じたのは、
こんなものじゃない。
あれは――ほんの欠片だったのか。
目の前の光景は、
まるで、
世界中の色を一つのバケツにぶちまけて、
力任せにかき混ぜたような、歪な“何か”。
逃げ場のないこの部屋で、
それは膨れ上がり続けている。
(……まずい)
本能が、警鐘を鳴らす。
これは――
触れていいものじゃない。
目の前の少女の周囲は、
これまで踏破してきたどんな魔境よりも、
圧倒的に「死」に満ちていた。
――触れれば、終わる。




