5.違和感の正体 後編
(このままじゃ、マズイ)
手の震えが、止まらない。
突き立てた鉄剣が、
少女から溢れ出す漆黒に絡み取られ、
ミシミシと嫌な音を立てて軋んでいた。
ただの魔力暴走——
そんな言葉で片付けていいものじゃない。
押さえ込もうとするたびに、
逆に、こちらが削られていく。
腕から、生気を吸い取られていくような感覚。
(……強すぎる)
いや、違う。
(暴れてるんじゃない)
(……これは、“拒絶”だ)
触れるものすべてを、
遠ざけるように。
壊すことでしか、
距離を保てないみたいに。
その中心で——
彼女が、小さく震えていた。
「……やだ……」
かすれた声。
意識は、ある。
だが、制御できていない。
「来ないで……」
拒絶の言葉とともに、
漆黒がさらに膨れ上がる。
(このままじゃ——)
彼女の器が、先に壊れる。
退くか。
それとも——
恐怖に、心が揺れる。
その時だった。
「ノルンっ!!」
怒号と同時に、
扉が、内側から弾け飛んだ。
木片が弾丸のように飛び散る。
「おい!無事か!」
聞き慣れた声に、振り返る。
アッシュだ。
その背後には、
青ざめた顔で立ち尽くすテオ
右目に、幾何学の魔法陣が静かに浮かび上がっていた。
「……待て、これ……おかしい……」
誰も、動けない。
いや――
動いてはいけないと、直感が告げていた。
「……チッ、来るなって言っただろ」
振り返らずに吐き捨てる。
だが、その声に余裕はなかった。
手元の剣が、
黒く変色し始めている。
まるで、腐り落ちるみたいに。
「ノルン、その剣を離せ! お前まで巻き込まれるぞ!」
「これ変だぞ、魔力の流れが狂って……」
テオの声が、途中で途切れる。
限界だ。
(クソッ……!)
その瞬間——
バキンッ!!
剣が、音を立てて砕けた。
支えを失った漆黒が、
一気に膨張する。
「……っ!」
空間が、軋む。
押し潰される。
視界が、歪む。
その中心で、
彼女が、震えながら——
「……やだ……」
泣いていた。
(……まだ、間に合うか)
ノルンは、歯を食いしばる。
これは敵じゃない。
倒すものじゃない。
「アッシュ!力を貸せ!」
叫ぶ。
選ぶ余地なんて、最初からなかった。
――救うしかない。




