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愛を乞う少女は、漆黒の泥で世界を壊す  作者: ちぇるしー


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33/35

33.ギルドからの使い

怖い夢を見ることなく、

翌朝を迎えていた。


ノルンとの間にぎこちない壁はなくなったきがした。

怖がられてる理由も分からない相手に

普通に接するなんて難しい話に決まってる。


全てを話せたわけじゃない。

でも、今の私にとって現実とも言えない曖昧な夢の話を

彼に聞いて貰えた。


それだけでも最初と比べると

かなりの成長なんじゃないかと思う。


──整えたら下に降りよう


ミシッと軋むベッドから降り、

部屋の端にあるドレッサーに向かう。

そして、ブラシを手に取り、

絡まる髪を少しずつとかしていく。


「よしっ」


──早く行こ。



部屋を出ると、パンの香ばしい香りと、

階下から親父さんと3人の声が僅かに聞こえてきた。


相変わらず早いな、なんて思いながら、

私はゆっくりと階段を下りていく。


──いつも通りの朝。



そして食堂に降りると、既に3人はテーブルに座り、

朝食を食べ進めながら親父さんと話していた。


テーブル近くで話してた親父さんは

私に気づくと、いつもの調子で声をかけてくれた。


「おはようさん。嬢ちゃんのご飯もすぐ出すから待ってな」


そう言うとすぐにキッチンに戻っていく。


「おはよ~ルナ」


そして、真っ先に手を振ったのはテオだった。

昨日、魔力を受けすぎて倒れたはずなのに、

いつも通りの軽い笑顔を浮かべている。


「……テオ、もう大丈夫なの?」


「大丈夫大丈夫。寝たら治った!」


「大丈夫ではねぇーけどな」


テオの隣に座るアッシュは、呆れた顔をしながら、

ちらりと横目でテオを睨んだ。



「えぇーどこがー?」


その言葉につられてテオの手元を見ると、

彼の指先が小刻みに震えていた。

なみなみと飲み物の入ったカップも、

それにつられるように小さく傾く。

そして、縁からあふれた中身が手の甲をかすめ、

テーブルの上にぽたりと落ちた。


「……あちっ!」


「ほらな?ずっと手、震えてるしな」


「アッシュが変なこというから!」


そんなやり取りを聞きながら、

私はノルンの隣に空いていた席へ視線を向けた。

一瞬だけ、足が止まる。


理由は簡単だ。

昨日の積極的な行動のせい。


──自分から手を握った


今さら意識するのも変な話だけど、

思い出した途端、頬が少し熱くなる。

それでも私は小さく息を吸って、

ノルンの隣の席に腰を下ろした。



「おはよう。ノルン」


「おはよう」


ほんのり優しい笑顔を浮かべている。

いつものぎこちなさがやっぱり無い。


頬が熱い


「あれーなんか2人距離近くなってない?!」


「テオうるさいぞ」


「えぇーノルンいつも俺の扱いひどい!!!」



──ビーッ


来訪者を知らせるベルが、

平和な空気をかき消すように鳴り響いた。

その音に、親父さんがキッチンから顔を出す。


「……こんな朝早く、誰だ?」


そうぼやきながら、親父さんは食堂を離れ、

玄関の方へ向かっていった。


「飯時にめずらしいな」


淡々と食事をとるアッシュに、

テオは、特に気にする様子はなく、先程こぼした飲み物を布で拭いている。

ただ、ノルンだけは、親父さんが出ていった通路を見ていた。


恐らく私が見ていることも気づいてないだろう。

彼の意識は、訪問者に向けられていた。


そう思ってる時間は一瞬の事、

すぐに足音が先程より数多く聞こえた。


「おい、ギルドの使いが来たぞ」


「ラナベルの皆様、朝早くの訪問

大変申し訳ございません。」


親父さんの声に続いて現れたのは、

紋章が入った濃紺の上着と、同じ色の細身のズボンを身につけた若い男性だった。


「ギルド長から、ご伝言がございまして、

本日、ラナベル三名にギルドへお越しいただきたいとの事仰せつかっております」


「三名? 」


すぐに反応したのは、ノルンだった。

思わず、隣に座る彼を見つめる。

先ほどまでの柔らかい表情は消え、

真剣な眼差しに変わっていた。


それでも、若く見える男性は怯むことなく、

ピンと伸びた姿勢で、表情一切変える様子もないところを見るに、ある程度の地位にある使いのものなのだろう。


「はい。ノルン様、テオ様、アッシュ様の三名です」


一瞬だけちらりと私の方へ視線を向けてから、

申し訳なさそうに目を伏せる。


「今回ルナ様は、宿でお待ちいただくように、と。ギルド長から伺っております」


「目を離すなと言うてたはずだが…?」


「宿に信頼のおける主人がいるとの事で」


ノルンは、やはり納得していないようだった。

テオもアッシュも、どこか不安そうな表情を浮かべている。

ただ、私にも分かるのは

恐らく、私が聞くべき話ではないということ。


──だから、私は


「大丈夫だよ!行ってきて!」


できるだけ明るく聞こえるように言えたはず。

本当は、心臓が握りつぶされたんじゃないかと思うくらい不安なのも確かだった。

彼らを私の弱さに引きずる訳にもいかない。


「親父さんもいるし……平気!!」


ノルンはしばらく私を本心を確かめてるかのように

見つめてから、少しトーンを下げた声で呟いた。


「宿からは出ないで。親父さん頼んだ」



「任せとけ」


親父さんは短くそう返し、

私も続いて「わかった」と頷いた。


「あとこれ持ってて」


隣に座るノルンは、収納ボックスの中から何かを取り出した。

私の手のひらに落とす、そこには小さな青い魔石が着いたネックレスだった。

光を受けて、宝石みたいにきらきらと輝いていて、

思わず、綺麗だなんて思ってしまった。


「これは?」


「魔道具。もし何かあればここに魔力を流し込め」


ノルンはそう言うと、自分の首元に手を入れた。

服の下に隠れていたネックレスを取り出し、私に見せる。

そこにも、同じような青い魔石がついていた。


「こっちに、響く」


「響く……?」


「ああ。少しでも何かあれば、これを使え。俺の魔石が光る」


ノルンはそう言うと、視線を前に戻した。

それから、私の頭にぽん、と軽く手を置く。


「……うん」


ノルンは、返事を聞いてすぐ、静かに立ち上がり、

それに続くように、テオとアッシュも席を立つ。

さっきまで穏やかな朝食の席が、

ほんの一瞬で、別の空気に変わってしまった。


「ルナ、ほんと無理しないでね」


テオはいつもの笑顔を浮かべながら私のそばまで来ると、

頭をわしゃわしゃと撫で回した。


「ちょ、テオ……」


「はいはい、そこまでだ」


アッシュはテオの後ろ襟をつかむと、

そのまま引きはがすように後ろへ引っ張った。


「……うぐっ」


「テオ、いいから行くぞ。ルナ、親父さんの言うこと聞いとけよ」


「……うん」


「ルナーーー」


ノルンとアッシュの後ろ姿と、

引きずられながらこちらに手を伸ばすテオを見ながら、

私は青い魔石のネックレスを胸元で握った。


不安は、まだ消えない。

でも、強くなると決めた。


──ちゃんと笑える。大丈夫。


そう言い聞かせながら、私はできるだけ笑ってみせた。


「行ってらっしゃい」


三人は一瞬だけ私を見た。


「行ってくる」


そしてその声を最後に、

さっきまで穏やかだった朝の食堂から、三人の姿が消えた。


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