↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛を乞う少女は、漆黒の泥で世界を壊す  作者: ちぇるしー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/37

22.青になった漆黒

あの決意を噛み締めた日から、数日が過ぎた。

私は相も変わらず、森の奥で魔法の練習を続けている。


制御することも、

魔法を出すことさえギリギリだったのは、つい数日前のこと。

まだ制御こそ覚束ないが、

魔法の発動は、自分の意思でコントロールできるようになっていた。


「……灯れ」


森の木々が揺れ、

軽く吹く風に、私の声が溶けていく。


今までは、黒が混じったようなくすんだ色しか出すことができなかった。だが、今日は違った。


次の瞬間、指先に宿ったのは、


──深い、深い、海の底みたいな青。

あるいは、絵の具のロイヤルブルーに近い色。


「……濃い青!? すげぇ!」


少し離れたところで魔物を警戒していたテオが、

跳び上がって駆け寄ってきた。


彼の右目に浮かぶ魔法陣が、

驚きを具現化したみたいに、青く点滅している。


それに続いてアッシュも近づいてくる。

だが、ノルンだけは少し離れた木陰に座ったまま

こちらを静かにみていた。


「テオ、それってすごいのか?そんな色初めてみたが……」


ピンと来ていない様子で、

アッシュは興味津々に首を傾げ、

テオは目を見開いたまま勢いよく振り返る。


「すげぇに決まってるだろ?

こんなの、師匠の魔法でしか見たことねぇよ」


「え、師匠超えてるのか!? すごいな……」



「なわけねぇだろ!」


即座に否定したあと、

テオははっとしたように私を見た。


「……いや、違う、そうじゃなくて!

ちが、ルナがすごくないって意味じゃなくて!

むしろすごいんだって、本当に!」


慌てて両手をぶんぶんと振る。

その動きに合わせるように、

右目の魔法陣まで落ち着きなく点滅していた。


「えーと、だから……

すごいのはすごい!でもその……比べる相手が悪いっというか……あぁーっ!!違うな、悪いって言い方も違うし……もう!」


いつも通り、どこかコントみたいなやり取りが始まる。

しっかりしていて、大人びて見えるのに、

こういう時のアッシュは少しずれているし、

テオの慌て具合にも私はつい笑ってしまう。


「テオ、大丈夫だよ」


私が笑いながらそういうと、

動きを止めて、不安そうな顔をしてこちらを見る。


「ほんと……?」


「うん!分かってるし気にしてないよ」


「良かった……」


テオは露骨にホッとした顔をしてすぐに

「もう、アッシュが変なこと言うから……!」

とボヤいていた。


「だってお前、師匠しか見たことないって言っただろ。師匠がすごいなら、ルナもすごい。間違ってないよな?」



アッシュは本気で不思議そうに首を傾げている。

この人はきっと、目の前で起きた物事をそのまま信じてしまう、真っ直ぐな人なのだろう。


「理屈はそうだけど! レベルの話だよ、

レベルの! ……ったく、アッシュはこれだから……」


騒ぐ二人を横目に、私はそっとノルンへ視線を向けた。

その瞬間、すぐそばで続いていたはずのテオとアッシュの声が、やけに遠のいていくように感じた。


木陰に座っていたノルンと視線が合う。

その時、ノルンの唇が、音は聞こえないが確かに動いていた。


『よくやった』


あの水場で見た優しい目で、彼はうっすら笑みを浮かべてた。

心臓がとくんと鳴り、余韻に浸る。


──また進めた気がする


まだ彼に上手く笑いかえすことができない



──けど


「……っ」


視界がわずかに潤みそうになり、私は慌てて俯く。

指先に灯るロイヤルブルーの光が、今の私の鼓動に応えるように、ひときわ強く、けれどどこまでも優しく輝いた。


「おーい、ルナ? どうした、急に黙り込んで」


テオの呑気な声が鼓膜を叩き、魔法が解けたように周囲の音が戻ってくる。


「……なんでもないよ。ちょっと、綺麗だなと思って」


テオが、何かを言いたげに私を覗き込む。

私の変化に気づいたのだろう。心が跳ねた瞬間、魔法の色がさらに鮮やかさを増したのを、あの右目が見逃すはずがない。


それをかき消すかのように、

まだ少しだけ震える指先でその輝く青い光をそっと握り潰す

手のひらには、確かに温かな感触が残っている。



──返したい


彼の一方通行の笑みじゃなくて

いつかちゃんと、私の方からも。


そのためにも、もっと強くならなきゃいけない。


ゆっくりと顔を上げる。

森の奥を吹き抜ける風は冷たいのに、

胸の中には、不思議なくらいあたたかなものが残っていた。


「……もう一回、やってみる」


ぽつりと零れた私の言葉に、

テオがぱっと顔を明るくする。


「いいね、それ!

その色、安定して出せるようになったら絶対すごいって!」


「今度は師匠より上かもしれんな」


「だから違うって言ってんだろ、アッシュ!!」


その声を聞きながら、私はもう一度、そっと手を開いた。


指先に宿る青は、

さっきよりも少しだけ、迷いなく揺れていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。