2.戸惑いと現実
4月6日、1部修正しました。
▶ ▶ ▶ ノルン視点
駆け寄った時には、
彼女はすでに意識を失っていた。
(怪我は……ないな)
見える範囲に傷は見当たらない。
だが、様子がおかしい。
まるで発作のような……
(……それに)
この森は、最近魔物の活動が活発だ。
そんな場所に、なぜ一人でいる?
疑問は尽きないが、
このまま放置するわけにもいかない。
俺は彼女を抱き上げた。
その瞬間、
ふわり、と香りがした。
(……なんだ)
かすかに甘い、
嗅いだことのない匂い。
柔らかく揺れる黒髪。
整った顔立ち。
それに、
彼女がまとっていたのは、黒いドレスのような衣だった。
襟や袖の作りが、この土地のものとは少し違う。
裾には泥がこびりつき、端の方は少し裂けていた。
(異国人……か?)
目が合った時のことが、
妙に頭から離れない。
彼女は、飲み込まれそうなほど、
真っ黒な瞳をしていたのだ。
「おーい!ノルンどこだー!」
「ノルン!また先行ってんだろ!」
聞き慣れた声に、意識を引き戻され
ゆっくりと、声の聞こえた方へ振り返った。
「……遅いぞ、お前ら」
「いやいやお前が早すぎんだよ!」
赤髪の青年——テオが肩をすくめる。
その隣で、
金髪の青年アッシュがため息をついた。
「単独行動は控えろと言ったはずだ」
「悪いって。ちょっと気になる反応があってな」
二人の視線が、彼女へ向いた後
すぐにテオは眉をひそめる。
「……で、それ何?」
「お前、どこでそんなの拾ってきたんだよ」
軽口を叩きながらも、
その目はしっかりと彼女を観察していた。
「……生きてんのか?それ」
「魔力反応は……この子か」
アッシュも、真剣な表情になる。
「とりあえず宿に戻ろう。
この子の状態も気になるし」
言葉と同時に、俺は彼女を背中に背負いなおした。
ぐったりと預けられた重み。
背中に直接伝わる、生々しい体温。
そして、ふわりとあの甘い香りが、
嫌でも俺の冷静さを乱してくる。
(……落ち着け。余計なことは考えるな…)
慣れない温もりに揺れる自分を叩き直すように、ぐっと奥歯を噛み締めた。
わずかに生じた心の魔を無理やり押し殺し、彼女の体がずり落ちないよう、もう一度強く腕に力を込める。
「アッシュ、前を。テオ、隠蔽。……急ぐぞ」
二人は瞬時に散り、俺の指示に従う。
俺は背中で眠る少女のぬくもりを振り切るように、
森の闇へと踏み出した。




