17変わりたい気持ち1
宿に帰ってからも、
ノルンと顔を合わせることはなかった。
私は、テオが使っていた宿の一室で、
布団の中に顔を埋めたまま、小さく息を吐いた。
本当なら、テオが一番休める場所だったはずだ。
それなのに、私に貸すために、
彼はわざわざ自分の荷物をまとめて、
ノルンの半壊した部屋へ移動してしまった。
「一時的に扉は塞げるし、
寝るだけなら平気平気」
なんて、テオは笑っていたけれど、
それでも私の胸が軽くなるわけじゃなかった。
部屋を譲ってくれたテオにも。
壊れた部屋に戻ることになったノルンにも。
私はまた、迷惑をかけている。
申し訳なさが、膨らむばかりで
考えれば考えるほど胸が苦しくなった。
私は縋るように、
テオにもらったぬいぐるみを抱き寄せた。
やわらかくて、少しだけあたたかい。
それだけで、ほんの少し息がしやすくなる。
ひとりじゃないよ、って言ってくれているみたいで、
少しだけ心強かった。
ただ……ため息は無意識にこぼれる。
「はぁ……なんだかな……」
学生のころ、よく転生ものの漫画を読んでいた。
正直、被害者ヅラして
周りを振り回すヒロインはあまり好きじゃなかった。
そのせいで見るのを辞めることも多々あった。
なのに──
気づけば、今の私は
自分が嫌っていたような人間そのものだった。
何も悪くない人を拒絶して、
困らせて、それで勝手に落ち込んでいる。
──変わりたい。
伝えたい言葉がある……のに
ばさりと布団を少しだけ下ろして、
私は天井を見つめた。
涙で灯りがぼやけて見える。
また沈み込みそうになった、その時──
部屋の扉が、小さくノックされた。
「……るな? 起きてる?」
テオの声だった。
私は慌てて目元を拭い、なるべく平気そうな声を出す。
「あ、うん。起きてるよ」
扉がそっと開き、テオが顔を出した。
その手には、湯気の立つマグカップがあった。
「寝れないかなー?って思って
温かい飲み物貰ってきたけど一緒に飲まない?」
テオはサイドテーブルに2つのカップを置く。
そのカップの中にはミルクが入っていた。
「……ありがとう。部屋のことも昨日のこともごめんなさい」
そう言いながらカップに手を伸ばし、
そっと口をつける。
やさしい香りが鼻に抜けて、
温かさがゆっくり喉に落ちていった。
涙腺まで刺激されそうだった。
涙を拭ったばかりなのに。
「いいって!冒険者なんて波乱万丈だから!慣れてるって」
テオは椅子の背もたれに逆向きに座ると、
少しだけ真面目な顔で私を見た。
「なぁ……余計なお節介かもだけどさ。
るな、ノルンのこと気にしてるだろ?」
その言葉に、
胸の奥がぎゅっとした。




