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愛を乞う少女は、漆黒の泥で世界を壊す  作者: ちぇるしー


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16/25

16.拒絶したいわけじゃない。


まただ。また、私は

また彼を、拒絶した。


「……悪い」


不意に落ちてきた声に、

私はびくりと肩を震わせた。


見ると、少し離れた場所で

ノルンがこっちを見ていた。


責めるでもなく、

怒るでもなく、

ただ静かに、少しだけ眉を寄せている。


「近づきすぎた」


短いその一言に、胸の奥がきゅっと痛んだ。


違う。

悪いのは、ノルンじゃない。


そう思うのに、

喉が詰まって、うまく言葉にならない。


「ちが……っ」


かすれた声は、

情けないくらい小さかった。


テオが、私とノルンを交互に見てから、

わざと明るい声を出した。


「はい、今日はここまで!

初日でちゃんと出せたし、止めるとこまでできた!

十分すごいって」


「……十分、とは言いがたい気もするが」


アッシュが低く返す。


「細かいことはいいの。

少なくとも昨日よりは進歩してる」


そう言って、テオは私の肩を軽く叩いた。


「それに、原因も分かったしね」


原因。


その言葉は、冷たい手みたいに胸の奥をぎゅっと掴んだ。

言われなくても分かっていた。

私がこんなふうになったのは、

ノルンが近づいたからだ。


正確には、

ノルンの黒い髪を見た瞬間、

身体が勝手に怯えた。


最低だ。


そんなの、ノルンにはどうしようもないのに。


「……次からは、俺は近づかない」


静かな声だった。


焦って顔を上げると、

ノルンは少し離れた場所に立ったまま、

責めるような色も、困らせようとする気配もなく、

ただ、それが当然だとでもいうみたいに

眉を下げて誤魔化すように微笑んだ。

気にしないで、と言っているようだった。

その笑みが、余計に心に刺さった。



「いや、ノルンが悪いって話じゃねえだろ」

アッシュが眉を寄せる。


「分かってる。

でも、今はそのほうがいい」


───違う。


短く答えたノルンに、

アッシュもそれ以上は言わなかった。


テオが空気を切り替えるように、

ぱん、と手を叩く。


「よし、じゃあ今日はここで終わり!

帰って休もう。るなも頭ぐるぐるしてるでしょ」



テオの言葉が、うまく頭に入ってこなかった。

すぐ近くにいるはずなのに、厚い膜の向こうから聞こえてくるみたいに、音だけがぼんやりと遠い。

言葉の形はわかるのに、脳に落ちず、そのままゆっくり消えてく。

今の私には、小さく頷くことしか出来なかった。




森を戻る道すがら、テオは絶え間なく喋っていた。

あのぬいぐるみを作るのに意外に時間がかかって寝不足だってこと。

この辺のラビットは見た目のわりにすばしっこいこと。

アッシュが昔、野営中に変な木の実を食べかけたこと。


断片的な言葉が耳をかすめていくだけで、

詳しい内容までは頭に入ってこない。

今の私には彼の優しさを受け止めることも出来ず、

ただ聞いてるだけ。


それでも、彼がわざと他愛もない話をして、この痛いほどの沈黙を埋めようとしてくれていることだけは、

ぼんやりと伝わってきた。


アッシュは「その話はするな」と呆れた顔をして、

テオは楽しそうに笑っていた。


そのやり取りに、

少しだけ肩の力が抜ける。


けれど、視線を向けるたびに、

少し前を歩くノルンの背中だけは遠かった。


一定の距離を保ったまま、

一度もこちらを振り返らない。


その背中を見ていると、

怖いという気持ちとは別の、

もっと鈍くて重たい痛みが胸の奥に溜まっていった。


違うのに。


本当は、ああされたかったわけじゃない。

遠ざかってほしかったわけでもない。


ただ、身体が勝手に怯えただけで。

勝手に拒絶してしまっただけで。


でも、拒絶された側には、

そんなこと関係ないのかもしれない。


宿が見えてきた頃には、

胸の奥が苦しくてたまらなかった。


怖かった。


でも、それ以上に。



私はただ、ノルンの背中を見つめることしかできなかった。

彼は最後まで、一度も振り返らなかった。

その距離だけが、胸に残る。

何も悪くないあの人を、

自分が傷つけてしまったのだと、

そう思うだけで、たまらなく苦しかった。

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