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愛を乞う少女は、漆黒の泥で世界を壊す  作者: ちぇるしー


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14/24

14.始まりの朝

朝、目が覚めた時。

どのくらい寝ていたのだろう……。


見慣れない天井。

木の匂い。

差し込む淡い光。


そこでようやく、

昨日のことが夢じゃなかったのだと知った。


あのあと、あの人たちは大丈夫だったのだろうか。

私は、これからどうすればいいのだろう。


考えようとするほど、

胸の奥が落ち着かない。

どくん、どくんと、

うるさいほどの鼓動が不安を煽る。


知らない土地で、

お金のことすら分からない。


そんな私が、一人で生きていけるはずがなかった。

現実から逃れるように、全身をシーツに埋めた。


──コンコンコンコンコン!


「おーい、起きてるー?」


その声に、私は勢いよくシーツから頭を離した。

すると、扉がほんの少しだけ開いて、

その隙間から、丸いぬいぐるみがひょこっと現れた。

思わず、そのつぶらな目と目が合う。


一瞬、何が起きたのか分からなくて、

張りつめていた息が少しだけ抜ける。


「……ほら、怖くないですよーっ」


ぬいぐるみに続いて、テオが扉の隙間から顔を覗かせた。


……なんだろう。

少し気の抜けた雰囲気のせいなのかな。


不思議と彼には恐怖を感じなかった。

テオはぬいぐるみを抱えたまま部屋に入り、

そのまま近くの椅子に腰を下ろす。


「んー、今日は落ち着いてるね。体調はどう?」


赤い髪をふわふわ揺らしながら、

テオは首を傾げた。


「大丈夫、です……。

でも、昨日のあれ……

私、どうなってたんですか……?」


「あー……簡単に言うと、

魔力が一気に溢れた、って感じかな。

……で、聞いていいのか分かんないんだけどさ」


そこで一度だけ、

テオはいつもの軽い調子を少し落とした。


「るなって、ああなる時に何か心当たりある?

怒りとか、強い感情がきっかけになる人は多いんだけど」


「ただ……怖かったんです。

怖くて、怖くて……たまらなくて」


「怖い、か……

そっか。まぁ、オレは怖くないってことで大丈夫か!」


にっと笑って、

テオはそれ以上深く踏み込まず、

うさぎのぬいぐるみを私の手元に置いた。


「はい、これ。るなにプレゼント!

魔法で作ったぬいぐるみ」


「プレゼント……?」


「この怯えてる感じ、るなっぽいなーって。

魔法で編んだんだよね!」


やっぱり、この世界には魔法があるんだ……。

そんな当たり前みたいな一言に、

胸の奥が少しだけざわつく。


「魔法で……?」


思わず、手元のぬいぐるみを見つめる。

やわらかな感触は確かにそこにあるのに、

それが魔法で作られたなんて、まだうまく信じられなかった。


「そうだけど……え、るなって魔法のこと、知らないの?」


きょとんとした顔のまま、テオが瞬きを繰り返す。


「……知らない、です」


自分で口にしてみても、

それがどれだけおかしなことなのかは分からなかった。

けれど、テオの反応を見る限り、

たぶん私が知っている普通と、

ここの普通はずいぶん違うのだろう。


「へぇ……そっか。

いや、ごめん。悪気はなくて、ちょっとびっくりしただけ」


そう言って、テオは慌てたように手をひらひら振った。


「魔法って、使えない人もいるけど、

知らないって人はあんまりいないんだよね。

誰でもぽんぽん使えるわけじゃないけど、

見たことも聞いたこともないってのは、けっこう珍しいかな」


「じゃあ……

昨日のあれも、私の魔法だったってことですか……?

私も、使えるんですか?」


昨日のことを思えば、

そんなふうに考えるのは不謹慎なのかもしれない。


迷惑をかけたばかりなのに、

それでも魔法という言葉に、

胸の奥がほんの少しだけ高鳴ってしまった。


「うん。昨日のあれ、たぶんるなの魔力。

だから、るなは魔法を使えるってことだと思う。

で……たぶんなんだけど、魔力量はかなり多い。

下手したら、俺よりずっと上かも」


──俺よりずっと上かもしれない。


その言葉に、昨日の荒れた部屋が脳裏に浮かぶ。

無意識に、シーツをぎゅっと掴んだ。


あんなものが自分の力だと言われても、

素直に嬉しいとは思えなかった。


少し胸が躍ったかと思えば、次の瞬間には怖くなる。

自分の心なのに、忙しすぎて馬鹿らしくなる。


そんな私の顔に気づいたのか、

テオは苦笑して肩をすくめた。



「うん、まあ、今それは褒め言葉にならないか。

でも大丈夫。

ちゃんと知って、ちゃんと慣れれば、

怖いだけのものじゃなくなるかもしれない」



怖いだけのものじゃなくなる。


そんな日が、本当に来るのだろうか。


まだ信じきれない。

けれど、

テオが当たり前みたいにそう言うから、

ほんの少しだけ、

そういう未来もあるのかもしれないと思ってしまった。



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