第三十二話『歌う小鳥に踊るナラ』
「お疲れだな、エア」
「……あぁ、ごめんなさいねナイブ。……最近、全然歌えないの」
ナラが襲われている最中、その上の階、VIPエリアに泊まっているエアとナイブの二人は、今日の演奏について話し合っていた。普段はエアが歌いながらバイオリンを弾くのだが、今日は何故か歌わなかったことを、疲れているのだと判断したのだ。
「ま、そういう所はあるか……」
「……そうね。ちょっと辛いけど……。仕方ないわよね」
そう話すエアの目には、諦めが見え隠れしていた。ナイブは、昔は楽しそうに歌っていたのになぁと思いつつ、それでも今有名になったから仕方が無いと思っていた。
「ごめんなさい。夜風に当たってくるわ……」
「そうか」
部屋を出て行くエアの寂しそうな背中を、ナイブは見る事しか出来ずにいた。
(……昔は、もっとヤンチャだったのにな)
昔は、一緒に過ごしていた森ではしゃいでいた事を思い返し、ノスタルジックに浸るナイブ。そして夜風に当たりに甲板に行ったエアはと言うと、そこでまた夜風に当たっているナラと出会っていた。月が真上に光る深夜と言う事もあり、甲板にはほぼ誰もいなかった。
「はぁ……」
色々あって前と後ろのハジメテを二人に奪われたが、何故か気持ちよかったナラ。完全に女になってきているのでは?と思ったが、ぶっちゃけこのままで良いかなとか思うようになってしまっていた。そんなナラは、一人月を見上げ黄昏ているエアに気が付かず、エアもまた気付いていない様子であった。
「……」
エアは、月を見て思った。
(……まだ、私は歌えるのかな……)
口を開く。歌が夜空に響く。透き通った声が、甲板にいきわたる。
「……?」
それに気が付いたのは、ナラだけだった。
「……良い歌だなぁ」
思わず踊りだしてしまうナラ。月明かりの元で、たった二人だけの演劇が行われる。
「……エア……」
ただ唯一、様子を見に来ていたナイブだけが、何とも言えない顔でそれを見ていた。
(……あいつの歌、久しぶりに聞いたな……)
そして、エアは一通り歌った後で、部屋まで戻ろうとする。その時、踊っているナラと出会ってしまう。
「……あ」
「……ん?」
その瞬間、今まで何をしていたのか理解し、そして顔を赤らめて駆け出す。ナイブの事すら見えない程、真っ直ぐに走り去っていった。
「いい歌だったなぁ。……もう一回聞けないかな?」
(あんなに楽しそうに歌ってるの……久しぶりに見たな。……でも、あたしは、このままでいいのか?)
目を伏せるナイブ。それを知ってか知らずか、ナラが話しかけて来た。




