挨拶攻め
舞踏会が催されている王宮の大広間は
以前、ユリアがアストロ・ジーラスという他国の元王と戦った場所でもあった。
あの時の闘いで大広間はガタガタになり
新しく建て直されたのだった。
壁も天井も隅々まで施された細かな細工。
キラキラと輝くステンドグラス。
どれも素晴らしいもので、ユリアは呆気に取られていた。
「ほわぁ〜、凄い。」
思わず、口から出てしまった言葉で
ハッと我に帰ったユリア。
気を引き締めて、また貴族スマイルを取り戻した。
会場内を歩くユリアとトーマスを、周りの招待客がじっと見ていた。
美しく着飾った貴婦人達は、扇子で口元を隠して何やらコソコソと噂話をしていた。
「ユリア、気にするな。」
トーマスはユリアの手をギュッと握りしめて、微笑んだ。
「あれが、噂の夫人か…」
「平民上がりだって言うじゃないか。」
「白金の魔法使いなんだろ?」
「まぁまぁの美人だな。」
まぁまぁの美人…。
よかった…まぁまぁでもそんな風に見えているなら。
ユリアは周りの声を聞きながら少しほっとした。
「ユリアさん!トーマス様!」
向こうから手を振るのはミュゼットだった。
隣にはハンターがお辞儀をしている。
「ミュゼットさん!」
この何百人といる招待客の中に、知り合いを見つけて安堵するユリア。
「ユリアさん、やっぱりユリアさんが1番綺麗。」
「当たり前だろ、ミュゼット。ユリアは世界一綺麗で可愛くて、お淑やかで…」
「トーマス様!やめて下さい。」
このまま放っておいたら、永遠に言い続けそうな勢いのトーマスをユリアが必死に止めた。
「なんだ、本当の事なのに。」
トーマスは何食わぬ顔で答えた。
ユリア達は、しばし楽しく歓談しながら時間を過ごす。
時折、トーマスに挨拶をしに来る貴族達も居た。
トーマスはユリアに向ける笑顔とは全く違う態度になり、その時ばかりは鬼の副総長の顔になった。
中には、キラキラとした笑顔を無駄にばら撒く自分の娘を連れて来て紹介する者もいた。
しかし、皆そっけなく返されおずおずと退散して行く。
そんな時は決まって、ユリアの事を上から下までじとーっと見てはトーマスには見えない様に睨みつけて行く。
「皆さん、失礼ですわ!ユリアさんという奥様がいらっしゃるのに!愛人にでもして欲しいのかしら。」
「いいんですよ、ミュゼットさん。別に気にしていませんから。」
こうなるだろうとは思っていたが、貴族達の図太さも半端ではない。
この国は王族以外は、側室は認められていないが
愛人という名前を変えた立場で何人も養っている貴族もいる。
中には、本妻よりも権力があったり
本妻を追い出して、愛人から本妻になった女性も多い。
おそらく、ここにやって来る貴族達はそこを狙っているのだろう。
絶世の美女でもなく、地味目な平民だったユリア。
取り柄と言えば、白金の魔法使いの力と街で経営しているカフェくらいなもの。
蹴落とすのは簡単だと思われているのかもしれない。
仕方ないとは言え、次々にやって来る貴族とその娘の挨拶攻めにトーマスが飽き飽きして来た頃…
ようやく、今日の主役の登場だった。




