正反対のトーマスとは
寝室に入ると、ベッドの上のユリアが
こちらを向いていた。
「トーマス様…」
「…ユリア…」
トーマスは静かにユリアに歩み寄る。
ユリアに抱かれた赤ん坊は、安心しているのかスヤスヤ眠っていた。
「………」
トーマスはじっと赤ん坊を見つめている。
何か言いたいのだが、上手く言葉が出て出てこない。
「トーマス様、抱いてみますか?」
ユリアが微笑む。
「あ、ああ」
トーマスは恐る恐るその赤ん坊を抱いた。
力を入れると壊れてもしまいそうな赤ん坊を抱いたトーマスは、なんとも言えない幸せな気持ちになる。
「女の子ですよ、トーマス様。」
ユリアがニッコリと言った。
髪の色はトーマス似の金髪。
目の色はユリアと同じ薄い茶色だった。
目鼻立ちもしっかりしたその女の子は、トーマスの腕に抱かれて大きなあくびをした。
「あくびをしたぞ。」
「ええ、トーマス様が好きなんですね。」
トーマスはいつまでもその寝顔を眺めていた。
ユリアとトーマスの長女は、「エリアス」と名付けられた。
「エリー」という愛称で呼ばれ、愛情いっぱいに成長中だ。
エリアスは日に日に活発になっていく。
近頃では、ハイハイが出来るようになり
人間らしさが増して来た。
その日も、領地からエリアスに会いに来たトーマスの両親が邸に来ていた。
「アー」
エリアスが、トーマスの母・アンジェラに向かってハイハイしている。
「まぁ、エリーちゃん!アンジェラおばあちゃまのお名前を言えるようになったのねー!」
アンジェラはエリアスが発する「あー」という言葉は、自分の事だと言い張っている。
「それじゃあ、おじいちゃまのお名前は言えるかな?エリー?カスタールだよ、カースータール。」
トーマスの父・カスタールはエリアスに向かって何度も自分の名前を言っている。
「キャッキャッキャッ」
「あ!ほら!今、言ったぞ!」
「何言っているのです?言ってませんよ。」
ムキになるカスタールに薄ーい眼差しのアンジェラ。
「お父様、お母様、お茶にしませんか?」
ユリアは絶妙なタイミングで2人に声をかける。
アンジェラはお茶飲みながら、エリアスを見た。
「あー、本当に可愛いわぁ。孫ってこんなに可愛いのかしら?」
「トーマス様のお兄様にも男の子がいらっしゃるんですよね?」
「そうなんだけれど、あの子達は何年もよその国にいるから会えないんですもの。それにうちは男ばっかりでしょ?やっぱり女の子はいいわぁ。」
トーマスの兄は、クリムト家の領地にはほとんど居なかった。
早くに妻が亡くなり、今は領地との関わりが深い他国でクリムト家の貿易の交渉役をしている。
いずれはクリムト家を継ぐのだが、それまでは帰るつもりはないらしい。
トーマスの兄にはユリアもまだ会った事がない。
邸の使用人に聞いた話によると…
見た目はトーマスにとてもよく似ているのだが、性格は正反対で物凄くおっとりとした人らしい。
物腰が柔らかく、争い事が嫌いな性格で
いつもニコニコしている人だそうだ。
ユリアはいつかトーマスを見ながら
トーマスの兄を想像してみたが、あまりにもトーマスとの性格が違うため想像すら出来なかったのだった。




