思い出ばなし
「ユリアちゃんの母親…あの子は王宮魔法使いの中でも特に優秀な白の魔法使いだった。…あの子が辺境地に派遣された時、私も一緒だったんだよ。」
トーマスはマクゴナルを見た。
マクゴナルは静かに頷いた。
「あの子とハンプトン辺境伯が恋仲なのは、私も何となく気付いていたさ。しかし、こちらは王都から派遣されている身。離れれば綺麗に忘れると思っていたんだ。」
マクゴナルは目を閉じる。
「あちらは、身分の高い貴族。一方こちらは庶民の出の魔法使い。よく言う身分違いの恋ってやつだね。」
マクゴナルはハァと息をつく。
「王都に帰った後、しばらくしてあの子が王宮魔法使いを辞めると言ってきたんだ。子供が出来たと。」
トーマスはじっとマクゴナルの話を聞いている。
「一緒に辺境地に行っていた私には誰の子かすぐに分かったさ。当時、ハンプトン辺境伯は家督相続問題の中心にいたからね…おそらく子供の事がマイナスになると思ったんだろうね。」
「そんな…ハンプトン様は必ず迎えに行くと約束したと聞きました。」
マクゴナルは頷いた。
「ああ。ハンプトン辺境伯はお優しい方だから、必ず約束を守るだろうさ。でもそんな優しい方だから、もしかしたら自分と子供の為に家督相続を放棄しかねないと思ったんだろうね。」
マクゴナルは冷めたお茶を一口飲む。
「身分の違う自分よりも、領主に相応しい家柄の女性と一緒になって生きてほしいと言っていたよ。だから、自分を隠してくれと。自分には子供がいれば良いからと。」
マクゴナルの瞳にうっすらと涙が光った。
「あの子の意思は堅かったよ。だから私は、王様と王妃様にお願いしてあの子の名前も身分も全て他人にすり替えてあげたんだ。そして私も、そのあと王宮筆頭魔法使いを引退したんだよ。」
「そうなのですか…」
トーマスはその時のユリアの母親の気持ちを思って心が痛んだ。
「ハンプトン辺境伯は、ユリアちゃんの母親を探して当時居た薬草農園の私の所にも訪ねてきたよ。」
「その時マクゴナル様は何と?」
「あの子はこの国には居ないと言ったよ。あの子が自分を探したりしないで欲しいと言っていたと付け加えてね。まぁ、しつこい男だったよ!何度も私の所に訪ねて来てね。」
「そうでしょうね…愛する人の為ですから。私だって諦めません。」
「ははは、そうだろうねぇ。私は困ってしまって王妃様に頼んでハンプトン辺境伯に縁談をいくつも持って行ってもらったよ。」
マクゴナルは苦笑いをして涙をぬぐっていた。




