忙しい日々
王都に帰ってからのユリアは、カフェのメニューの最終仕上げに取り掛かっていた。
ハミルから伝授された、ショウガドリンクとケーキをアレンジしてみては屋敷の使用人に食べてもらい評価してもらっていた。
「奥様、ショウガの砂糖漬けの瓶をお持ちしました。」
「ありがとう!そこに乗せておいてください。」
ショウガの砂糖漬けは、砂糖の量を調整したものをいくつか作ったので漬かり具合や味の確認を毎日するのが朝の日課である。
「砂糖が少ないと色があまり良くないわね…」
瓶を1つ1つ確認しながら、ノートに書き留めて行くユリア。
そこにメイド頭のメリーがやって来た。
「奥様、旦那様がお目覚めになりました。」
「あ、はい!今行きます。」
ユリアはカフェのオーナーでもあるが、クリムト公爵分家夫人でもある。
ユリアは、夫人としての役目やトーマスとの時間を犠牲する事だけは嫌だった。
「トーマス様、おはようございます。」
「おはよう、ユリア。」
「今日も朝食はしっかり召し上がってくださいね。」
「ああ。」
楽な室内着に着替えたトーマスは、テキパキと着替えを用意するユリアに近寄り身を屈めた。
「ん?どうしたので…!!!!」
トーマスが近くに来たのに気づいたユリアが顔を上げると、トーマスがユリアにキスをした。
「ト、トーマス様。」
横目で見ると、部屋にいたメリーは下を向いて見ないフリをしていた。
「なんだ、夫婦だろう。」
「そうですけども!」
トーマスの溺愛ぶりは健在である。
メリーが静かに部屋を出て行ったのを確認してユリアはトーマスに言った。
「もう!トーマス様!」
「なんだよ、いいじゃないか。最近忙しくて、朝と夜中しかユリアの顔を見れないんだから。」
「まぁ、そうですけれど。」
「ユリア不足なんだよ。」
「わかりました!わかりましたから!」
ユリアは、そう言ってトーマスに抱きついた。
「私だって、トーマス様とあまり一緒に居られなくて寂しいですよ?」
「本当かい?」
「もちろんですよ。でも、みんなの居る前で…ちょっと恥ずかしいから。」
「わかった。」
トーマスは満足顔でユリアをもう一度抱きしめた。
トーマスに思う存分抱きしめられたユリアは、最後にチュッっとキスをしてトーマスを朝食に送り出した。
朝食が済んで、王宮騎士団の制服に身を包んだトーマスを見送る。
「今日は少し遅くなるかもしれないから、先に寝ていてくれ。」
「わかりました!お気をつけて、いってらっしゃいませ。」
屋敷の門から馬に乗ったトーマスが出て行くのを見送った後、ユリアはまたカフェのメニュー作り。
しばらく、メニュー作りをしていたユリアにメリーが話しかけた。
「奥様、今日はカフェの内装を見に行く日でございましたよね?」
「…あ!そうでした!いけない、忘れていたわ!」
「では、奥様急ぎませんと。その姿で外出はなりませんよ?」
ユリアはふと自分の格好を見る。
地味なワンピースにエプロン姿。
とても貴族の奥様の格好ではない。
「メリー!着替えを手伝って!」
「承知しました。」
メリーはメイド頭であり、凄腕の美容家でもある。
メイドの専門学校で身につけた技でユリアを貴族の女性へと変身させるのが得意だ。
何とか約束の時間に間に合うように出発できたユリア。
メリーと共に馬車に乗りながら、少し乱れたヘアの最後の仕上げをしていた。
「奥様はとてもお綺麗でいらっしゃるので、私もやりがいがあります。」
「そんは事言ってくれるのはメリーだけよ。」
「あら、そうでございますか?旦那様も奥様の事をいつもお綺麗だっておっしゃるのに。」
「トーマス様は私の旦那様だもの。ひいき目で言っているんです。」
メリーは、そんな事ないんだけれど…と思ったが
心の中でクスっと笑っただけにした。
「奥様はお綺麗です。自身をお持ちになってください。」
ユリアは、はぁ…とため息をついてメリーを見た。




