トーマスの勘
王宮騎士団の1室で大量の書類に囲まれているトーマスは、ノックの音で顔を上げた。
「どうぞ。」
ドアが開いて顔を覗かせたのは、エディだった。
「よう!捗ってるかい?」
そのエディの問いに、眉間にシワを寄せて顔を上げたトーマス。
「おい。邪魔するなら出てけよ。」
「そんな怖い顔して!俺はお前を励ましに来たんだぞ?」
「お前の励ましは結構だ。」
「お前!そんなこと言って!お前が新婚旅行に行ってる間、誰が仕事を代わったと思ってるんだよ。」
「ああ、それは確かに。」
「そうだろ、そうだろ。はい、ありがとうは?」
トーマスはため息混じりにまた書類に目線を移した。
「そうだな、お前がこの書類のサインの場所を間違えなかったらもっと感謝出来たのにな。」
「うっ!」
エディは、素知らぬ顔をしながら立ち上がりドアの方まで歩いて言った。
「あ、そうだ。プリアンヌからの伝言なんだが、近いうちに是非お前とユリアちゃんを我が家に招きたいそうだから。ユリアちゃんにも伝えておいてくれ。」
「ああ。」
「ユリアちゃんも忙しいだろうから、また日は改めてな。」
「わかった。」
「じゃあな。」
「早く行け。」
「わかったよ!」
バタンとドアを閉めたエディ。
他人が見れば2人のやり取りの刺々しさに居た堪れなくなりそうだが、この2人は騎士団に入った時からの悪友である。
2人には2人なりのコミュニケーションの取り方なのだ。
廊下を歩きながらエディはぶつぶつと言っている。
「ったく!トーマスの奴。結婚して丸くなったかと思ったら前のままじゃないか。新婚旅行のお土産はないのかよ、お土産は。」
一方、エディが居なくなって静かになったトーマスの執務室。
書類にサインをしていたトーマスが、ふと1枚の書類に目を止めた。
そこには王都の中でも治安の悪い地域での事件についての報告書だった。
「若い女性ばかりを狙った物取り…。少し気になるな。」
トーマスは騎士団の執務官を務めるハンター・ベイリーを呼んだ。
「副総長、お呼びですか?」
「ああ、ハンターか。忙しい所悪いな。」
トーマスはハンターに例の気になる報告書を渡した。
「この報告書が何か。」
「ああ、この事件の事について少し調べたいと思ってな。少々気になる所があるんだ。」
「と言いますと?」
トーマスはハンターに近くに寄れと手招きした。
少し声のトーンを落としたトーマス。
「おそらく、これはただの物取りではない。何か裏にあると俺は思う。」
ハンターは報告書に書いてある事を読みながら、トーマスの話を聞いた。
「ここには若い女性ばかりを狙った物取りと書いてあります。犯人は街のならず者グループ…。5人のうち3人は逮捕されていますね。」
「ああ。ハンター、悪いがこの件について内密に調べて欲しいんだ。まず、捕まった3人それぞれ別々に話を聞きたい。」
「分かりました。では、牢の確認を急ぎます。」
「頼むな。」
「いえ!私にお任せください。」
「くれぐれも内密にな。」
「はい。では、失礼いたします。」
ハンターは、騎士として実戦に加わっていたが
力仕事より頭を使う方がいいとトーマスが今回の移動の時に執務官に抜擢した優秀な人材だった。
ハンターなら内密にしっかりと下準備をするだろうとトーマスは確信していた。
「若い女性だけを狙った物取り…か。何だか大きな事にならなきゃいいが。」
トーマスはこの事件の事はハンターの報告を待つ事にして、また目の前の書類の山に取り掛かり始めた。




