辺境を去る日
その日の夜、ユリアはカフェの看板メニューがショウガケーキとショウガドリンクに決定した事をトーマスに伝えた。
「どう思いますか?」
「いいんじゃないかな?ショウガはとても珍しい野菜だし、なんと言っても身体にいいんだから。」
「そうですよね!良かったぁ〜。」
ユリアはホッとしてベッドに倒れ込んだ。
嬉しさを身体で表現した後に、ちょっとはしたなかったと思いベッドにきちんと座った。
「ごめんなさい。油断してました…」
そんなユリアを見てトーマスはクスっと笑いながら、隣に座った。
「別にいいよ。僕の前ではそのままで。」
「ありがとうございます。」
ユリアはニコッと笑いながら、トーマスの肩に寄り掛かった。
「トーマス様。」
「ん?」
「ありがとうございます。」
「何が。」
「えーと…色々。私が幸せになる方法を探してくれて。」
そう言ったユリアは、トーマスの頬にチュッと軽くキスをしてベッドに潜り込んだ。
「おやすみなさい。」
その夜もなかなか寝付けないトーマス。
ぐっすり眠るユリアの顔を眺めながら呟いた。
「幸せになる方法か…」
ハンプトンの屋敷に滞在してしばらくした日。
辺境を離れる時が来た。
「ハンプトン様、本当にお世話になりました。」
「ユリアさん、また来てくださいね!いつでも。」
「はい!ありがとうございます!」
「トーマス君も、また何かあったらその時はよろしく頼むよ。」
「あ、はい。わかりました。」
トーマスにはハンプトンの言葉が色々な意味が込められているのが分かった。
ユリアには知られてはいけない事が多すぎるので、トーマスはあえて気づかないフリをした。
「ユリアさんのカフェがオープンする頃に、また王都に行くよ。」
「はい!お待ちしています!」
馬車に乗ったユリアは、窓から顔を出してしばらくハンプトン達に手を振っていた。
ハンプトン達が見えなくなって、窓を閉めたユリアはトーマスに向かって話し出した。
「トーマス様、本当に楽しかったですね!」
「ああ、本当だね。」
「街の皆さんもとってもいい方ばかりでした。」
「本当に。」
「生まれて初めて海を近くで見たのも、嬉しかったです。」
「ユリアが喜んでくれて良かった。」
「またどこかに行けたらいいですね。」
「そうだな。ユリアはどこがいい?」
「うーん…分からないです。王都から出た事なかったんですから。トーマス様は?どこがいいですか?」
「そうだな…うーん…どこでも。」
「どこでも?」
「そう。」
「何だか、あまり行きたくないみたいに聞こえます。」
ユリアは、ちょっと頬を膨らませた。
「おいおい、誤解だよ。どこでもって言うのは、ユリアとならどこに言っても楽しいって意味。」
「え?」
「だから、その頬を膨らませるのやめなさい。」
ユリアはプーっと膨らませていた頬をシューっと元に戻し、トーマスを見た。
「なんだ?」
「トーマス様…」
「どうした?」
ユリアがじっとトーマスを見る。
「なんだよ。」
「私の事、愛してます?」
「え?」
いきなりそんな事を聞かれたトーマスは、久しぶりに顔が真っ赤になっていた。
自分から愛してると言うのは平気だが、改めて聞かれるとこんなに恥ずかしいのか…とトーマスは思った。
「どうして、いきなりそんな事聞くんだ。」
「うーん…何となくです。ハンプトン様の昔の恋人の話を聞いたからかな?」
その話を聞いてトーマスはちょっと複雑な思いがしたがそこはいつものポーカーフェイスで乗り切った。
「これだけは言っておくぞ。」
「はい。」
トーマスはいつになく真剣な顔になった。
「僕がユリアを思う気持ちは、誰にも負けないって事だ。」
「はい。」
「だから、覚悟しておきなさい。」
その後、ちょっと沈黙が続いたが
2人とも改めて考えて可笑しくなってしまった。
2人はその後しばらくは馬車の中は笑い声が絶えなかった。




