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【本編】お疲れ様、いただきます【完結】  作者: 山西音桜
second season
72/74

「会いたいな」

 朝、目が覚めると、起きていたお母さんに挨拶をした。

 料理を作っていた手を止めて、私を見ると「もう帰るの」と、少し寂しそうに笑うお母さんに、申し訳ないと思いながら首を縦に振る。

 お父さんに会う前に帰ってしまおうと思っていた事は、お母さんにもバレていたらしく、「またいらっしゃい」とそれだけ言った。


「うん」


 と、言いはしたけれど、私が本当に実家に帰ってくるかは微妙なところだ。

 アーサー君と離れてまで、実家に帰ってきたいというのは、思えない。

 お母さんや、満、瑠架、花恋を嫌いなわけではない、むしろ好きだけれど。でもそれ以上にお義父さんが苦手だ。

 実家に帰ってくる利点はたくさんあれど、たった一つのマイナス要素はそれを簡単に凌駕する。


「じゃあ、また」


 お母さん以外に誰にも会わず、私は玄関に向かう。

 満と瑠架には、連絡を入れておく。入れておかないとまた後で何か言われるに違いない。

 そう思っていたけれど、電車を待っていたら瑠架から電話が掛かってきた。


『姉ちゃん! 何で黙って帰っちゃうんだよ!』


 そういう事を言われると思って連絡をしたんだけれど、効果はなかったようだ。

 まだ話したかったことがあるだとか、もっとゆっくりしていけばよかったのに、となどの文句を聞き流して、電車がやってくる事を告げて電話を切ろうとすれば、最後に満が言いたいことがあると替わられた。


「何か、後で父さんが聞きたいことあるらしいんだけど、姉ちゃん連絡先教えていい?」

「あれ、お義父さんに言ってなかったっけ? 別にいい、よ」


 嫌だけど、本当は嫌だけれど。


「姉ちゃん?」

「じゃあ、本当に電車来ちゃうから切るね」


 断っても良くはないだろうから断ることはしなかった。

 何のために私と連絡を取るんだろう、きっとろくなことじゃない。そんな思いに頭を振る。

 以前はこんなこと考えもしなかった。

 考えようと思うまで、お義父さんと関わることもなかった。それ以上に嫌だとか、そういうことを普通に思えるようになった自分にびっくりした。

 とりあえず、今は、


「アーサー君に会いたいな」


 電車に乗り込んで窓際の席に座ると、そんなことを呟いた。

 凭れ掛かるくらいのつもりだったのが、意外と窓と距離があって、思いきりガツンとぶつかった。

 痛かった。

 スマホのイラストサイトで、推しのイラストを見ていると、上の方にお義父さんからの連絡が来たと通知バナーが見えた。

 このまま推しを見ていたいなぁという私の欲望を優先するか、それとも嫌な事を先に終わらせて、推しに癒されるかどちらか天秤にかけて、後者を取った。


『お父さんです』


 そんな文面から始まったやり取りは、結局お義父さんの会社で英語ができる人を探しているらしく、一度面接に来ないかという誘いだった。

 一度角を立てないように、でも今は就職をまだする気はないので、その旨を伝えると、お義父さんからはやっぱりというか、「いつまでもフリーターでいる訳にも行かないでしょ」と言われた。

 満から何も話を聞いていないのだろう。

 私が今のままでいいと思っている事を、お義父さんは聞いてない。

 私も言っていないのだけれど。


『すみません、行きません』


 と、それだけ言ってその後はお義父さんからの連絡先をミュートにした。

 就職について考えることはあっても、おそらくお義父さんの会社にだけは行かないだろうな、そんなことをぼんやりと思いながらイラストサイトを再度開いた。でもそろそろ本当に考えないといけないだろうか。

 まだ、この心地よいアーサー君との同居生活を続けていきたいと思うのは、世間から見ればダメな事だ。理解はしている。

 けれど私は納得はしないから。

 邪魔だけはしないで欲しい。

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