「今幸せだから、いいの」
私が自室に戻った後、満が部屋を訪ねてきた。
「どうしたの?」
「あの、さ。ごめん、姉ちゃん」
「何が?」
はて、謝られるようなことをされた覚えはないけれど。
そして、私が覚えていない時点で、満がおそらく謝るようなことじゃないのだろう。
「父さんが、なんか無神経で」
「それは満が謝ることじゃないでしょ」
ほらやっぱり。
お義父さんが無神経なのは、満のせいでは決してない。
というか、お義父さんが無神経な事あったかな、女の子なのに自炊しない云々の事か。
「でも」
「今日の事は誰かが悪いわけじゃないよ」
強いて言うなら、私だ。
お義父さんに会わないようにと満が気を遣って連絡してくれたのにそれを無駄にした。
お義父さんが出張行った当日に、帰ってきていればよかったものを、先延ばしにしたのは私なのだから。
「一応言っておくけど姉ちゃんが悪い訳でもないんだからね。たまたま予定が合うのがこの日だったってだけなんだから」
「あれ、今口に出してた?」
「やっぱりそう言うこと考えてた!」
バレてた。
アーサー君と言い、私は何を考えてるのかわかりやすいんだろうか
「姉ちゃんはもうちょっと怒っていいよ! 父さんが何言っても聞き流してさ」
「んー、女の子だから料理できないとダメっていうのはちょっといらっとしたけど」
私以上に怒ってた人が目の前にいたので怒るに怒れなかった。
目の前に怒ってる人いると、怒るタイミング見失うよね。
「僕たち姉ちゃんが持ってる資格とかの話したことあるんだよ? リビングにある姉ちゃんの土産の話した時に、それもコロって忘れてるんだよあの人」
だからアーサー君が日本語喋れるかって話になった時瑠架と揃って怒ってたのか。
お義父さんがどれだけ私に興味がないのかと、怒っていたのだろう。満と瑠架にとっては私は家族だけど、お義父さんにとっても家族であるようにというのが満たちの歓迎なのだろう。
「まぁ誰が誰の資格持ってるかなんていちいち覚えてないでしょ、一緒に住んでない家族なら尚更」
「一緒に住んでないのだって、父さんが原因なのに」
「それこそ、お義父さんが悪いわけじゃないよ」
「でも姉ちゃんが悪いわけでもない」
私が勝手にお義父さんを避けているだけの話なのだから、悪いのは私だろうに。
「そんなの、姉ちゃんが悪い訳ないだろ……! 姉ちゃんがあの人に殴られてたのは……」
「満たちのせいじゃ絶対にないよ」
なんだろうこの弟。私の弟にしては人間がよくできている。
頭を撫でてやる、身長が私よりずっと高いから、頭が高い位置にあるので少し背伸びをする。
いい子に育った上に、背も高くなった。やっぱりうちのお母さんは子育てを成功させているのだろう。
「いい子に育ったねえ」
「姉ちゃん……」
「兎に角、満は気にしないの。自分の未来も考えなさい」
「それ、姉ちゃんが言う?」
満は笑う。やっぱり満にとっては、私は未来のことを考えていないみたいに見えているんだろうか。フリーターを何年も続けている姉を未来のことを考えているように見る弟はいない。私ですら曖昧にしか考えていないんだから。
「私はいいの」
この生き方でもいいと思えるから。
この生き方ではないと、アーサー君に出会う事はなかったのだから。
「今幸せだから、いいの」
「そう」
穏やかに、けれど少しだけ寂しそうに満は笑った。
何でそんな顔をするのと聞いたら、「何でもないよ」と返ってきたけれど、その声は、顔は何もないという声ではなかったような気がする。
「姉ちゃんが気にすることじゃないよ」
「……そう?」
「そう」
満がそういうのなら、そうなんだと思う事にした。
大変長らくお待たせしました。
ここから完結まで突っ走りたいと思います




