表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編】お疲れ様、いただきます【完結】  作者: 山西音桜
second season
70/74

「案外楽しいですよ」

家族で久しぶりの談笑の中でお義父さんが「そういえば」と話を始めた。


「みな美ちゃんって自炊してるの?」

「してないですね」

「え、即答」


自炊というのは自分でご飯を作っているという意味なのだから、私の場合は「していない」と答えるほかない。まぁ「彼氏が作ってくれてるんです」といえば良かったのかもしれないけれど。


「女の子なのに?」


お義父さんからその言葉が出てきた瞬間、「で、出た〜」と思ってしまった。お母さんの方を見ると呆れたようにため息をついている。

女の子なんだから料理くらいできないと、とか言う固定概念だ。

しなくてもいい世の中になりつつあるのに、この「女の子はできないといけない」という固定概念がいつまで経っても消えないのは何故なんだろう。


「花恋も女の子だけど、まだにんじんの皮むきしかできないよ?」


割って入ったのは花恋だった。何という天使。それに対してお義父さんは気まずそうに「花恋はまだ小さいから」と言葉を繋いでいる。それを見て瑠架は口元を押さえて肩を揺らしている。笑いたいなら笑えばいいのに。


「みな美はイケメンの彼氏が作ってくれるのよね?」

「え、うんそうだけど」


花恋や瑠架に向けていた視線をお母さんに戻せばそこには般若がいた。

そうだろうなとは思っていた。満は表情は特に動かさず唐揚げを頬張っている。


「へえ、みな美ちゃん彼氏いるの。どんな人?」

「えっとイギリス人で、ご飯作ってくれる人です」

「イケメンのね」


お母さんが念を押すように畳み掛ける。

お前はイケメンでもなんでもないんだぞ、と言いたげに視線だけはお義父さんに向けて、顔はこっちに向いているのが逆に怖い。


「イギリス人? その人日本語できるんだね、日本に来て長いの?」

「「は?」」


今度は声をあげたのは満と瑠架だった。

今のはおかしな会話だっただろうか。


「そうですね、結構長いし、日本をぐるっと回ってるらしくて日本語はだいぶ話せますよ」

「そうなんだ」

「アーサー君ね! とってもかっこいいの!」

「花恋も会ったことあるの?」

「うん! 花恋もアーサー君みたいな人のお嫁さんになりたい!」


無邪気な言葉が刃となってお義父さんに突き刺さる。愛娘からそんな言葉出てきたら、それはショックだろうなぁ。なんて思いながら話の当事者は私なのに他人事のように考えつつ唐揚げを食べる。うん、おいしい。うちではめっきり揚げ物をしないから、こういう唐揚げはコンビニで買う程度だったけど、やっぱりまた違ったおいしさがある。


「花恋、アーサーさんみたいに日本語ペラペラでって人は難しいぞ?」

「そうだね、花恋も姉ちゃんみたいに英語話せるくらいにならないと」

「えー」


えいごかぁと呟きつつ、シチューの中のニンジンをつつく。「行儀悪いからやめなさい」とお母さんが嗜める。そんな花恋の向こうで、お義父さんがこっちを驚いた目で見ていた。


「え、みな美ちゃん英語できるの?」

「ああ、はい。一応TOEICとTOEFLもどっちも受けました」


本当はIELTSも受けたかったけどなぁ。残念ながら申し込みが間に合わなくてそのままになってしまっていた。IELTSがなかったところで「英語ができます」という証明には困らないので。あれは単にイギリス英語を勉強したいがために勉強していただけになっている。


「そっか、じゃあ大学も英語学科とか?」

「そうです」


その手の話はお義父さんとしたことなかっただろうか。

何せお義父さんと言葉を話すのが数年ぶりだから、どんな会話をしたかが思い出せない。


「お姉ちゃんはなんで英語勉強しようと思ったの?」

「あら、そういえば聞いたことなかったわね」


そうだったっけ。まぁ確かに大学も英語の成績良いから英語の大学行きますくらいの勢いで押し通したし、お母さんもそれで「いいんじゃない」って返したからそれ以上会話が膨らまなかったのだ。何にせよ大学で四年間も英語を勉強しようと思ったのはそれなりの理由があるからなんだろうと思われているに違いない。例えば国際交流的な仕事をしたいとか。


「いつかイギリスに行きたいって思ったからかな」

「それだけ?」


首を縦に振る。

嫁に会った時に困るからとは死んでも言えないけど。


「でもフリーターなのなんか勿体無いね」


一瞬お義父さんが何を言っているのかはわからなかった。

「勿体無い」という言葉が喉の奥を引っ掻いていく感じがして、むず痒い。

それは多分、お義父さんが『普通』だから、そう思うのであって、お義父さんは私じゃないから、あのバイト先でバイトをすることに意味を見出せないだけで、お義父さんはおそらく正しい。けれど、

私にとってそれは正しい言葉じゃない。私は私の選択を、普通じゃないとは思うけど、間違いだとは思わない。


「案外楽しいですよ」


シチューと一緒に飲み込んだのは、お義父さんに対する罵倒にも似た言葉だった。

それは、この場で口にしちゃいけない。花恋もいるのだから、怖がらせるのはよくない。

明日早々に実家を立ち去ることを決意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ