「お久しぶりです」
ホワイトデーのお返しは、バレンタインの翌日にあげることを決めていた。
それでも、「それ」が三月十四日に手に入るかというのは、賭けに近いことだということをネットで調べたので、近くのお店で事情を説明して、どうなるか訊いてみたら店員さんが「任せてください!」と言ってくれたので、三月に取りにくることを約束した。
そんなわけで、受け取り予定の三月十五日。十四日が日曜日だったために、さすがに休みを取るのが気が引けたのでこの日になった。ちなみに今日私は八時から二十三時まで出勤だ。
お昼の十三時に取りに来てみたのだけれど、名前を告げると店員さんが申し訳なさそうな顔をされた。曰く、少し到着が遅れていて、十五時頃に届くとのこと。「全然待ちます」と笑顔で返事をして、そのまま二時間ほど街を散策する。
と言っても、行き場所は大抵アニメショップか、古本屋になるのだけど。今現在何か私が予約していたものもなく、ブラブラと冷やかす程度にアニメショップをうろつき、そのあと古本屋で暇をつぶす。
「懐かしい」
そう呟いて、昔読んでいた漫画の背表紙に手を伸ばす、が届かない。
脚立を取ってくるほど読みたい訳でもないしなぁ、と思いながら手を下ろして「別に気にしてません、特に取りたい訳でもなんでもありませんでした」という風を装ってその棚を後にする。
まぁ、そんな風にしたところで、しなかったところで、周りの皆は自分の読書に没頭しているのだから関係はないんだけど。
「ふふっ」
あ、今誰だ笑ったのは。私のことを笑ったのか、それとも面白い漫画でもあったのか。後者ならお姉さんに見えるように読んでおいてくれるとお姉さんタイトルを心の中で控えるぞ。なんて思って振り返ったらジャンさんがいた。
「ジャンさん、お久しぶりです」
「うん、久しぶり。元気そうで何よりなんだけれどね」
言いづらそうに顔をしかめて、私の右耳に顔を寄せてジャンさんは囁いた。
「帰宅時刻が予定から外れる場合は師匠に連絡をしてあげて欲しい。急に連絡が来てびっくりした」
「あー、すみません」
そういえばスマホ見てなかった。まぁそうだろうなとは思ってたけど一件未読のLINEが入っている。帰ってくるのかどうかの確認連絡で、それに返信が一時間ほどなかったから、アーサー君は探しているのかもしれない。
「探してる、のかな。どうしよう」
アーサー君との連絡手段は基本彼がパソコンで、私がスマホだ。
なので、アーサー君が家にいない場合連絡を取る手段を私は持っていない。それで今まで問題はなかったので気にしてなかったんだけど、今度スマホでも契約してもらうようにお願いしようか。
「僕から伝えておこう。ついでに師匠は引き止めておいたほうがいいのかな?」
「え、なんで」
「ホワイトデーのお返しを師匠に渡そうとしていたんでしょう? それは予約していたものだった。それを取りに家を出たけれど届いてなかった。しかし時間を改めれば到着するもので、その時間を潰しに来た。という感じかと思っていたんだけど、あってるかい?」
「満点です」
なんでそこまでわかるんだろう。
情報屋みたいなことをしているとアーサー君から聞いたけど、もしかして名探偵でも兼業されているんだろうか。
「師匠に聞いた話によれば暇つぶしに街に出る時は「散歩」というらしい、それなら師匠がついてくるはず。師匠を連れてこなかったのは師匠が見ては困るもの。犯罪なんかの線は考えづらいから、師匠に対するプレゼントだと考えるのが妥当。で、僕も先日ナナからホワイトデーにお返しをもらったばかりだったからそうかなと」
日本人は本当に律儀だねぇ。とジャンさんは笑っていた。
愛おしそうに、笑っていた。
菜々ちゃんのことを、、本当に大切に思っているんだろうか。ジャンさんは。
「菜々ちゃんはどこまで知っているんですか?」
「僕のことは何も知らないよ。だから言わないでね。僕もこのことは黙っていてあげるから。おあいこという事で、一つ」
人差し指を口元に当てて、内緒のポーズ。
悲しそうに笑っていたものだから、私は「わかりました」と頷くことしか出来なかった。




