「え、何。セリフが格好よすぎてキレそう」
「ただいまー」
「おかえり、えらい荷物だな」
えらい荷物というほどでもない気はする。小さい紙袋と、中くらいの紙袋、あとコンビニの大きめの袋がそれぞれ一つずつと、着替え鞄があるだけだ
「ホワイトデーだよ」
「ホワイトデー?」
「バレンタインにお返しをする日」
お返しという言葉がピンと来なかったのか、アーサー君はしばらく私から目線を天井へ向けて、三秒ほどしてからしまったという顔をした。用意してなかったらしい。
けど。
「いや、アーサー君用意する理由なくないかな」
貴方私に送った側の人です。人じゃないけど。
「一応チョコレートを貰ったからな、慎也に聞いたがバレンタインのお返しは三倍にして返すんだろう」
「いいんだよ、アーサー君はそういうこと気にしなくて」
お返しは三倍返しなんて誰が言い出したことなのかは知らないし、特に興味もないけれど。その前にバレンタインでアーサー君は私に三本のバラを送っているのだから、お返しをするという発想がそもそもおかしいのだ。
私はアーサー君に色々してもらいっぱなしなのだし、これ以上お返しという形で何かをもらうとなるといよいよ甘やかしすぎにも程がある。それが嫌だというわけではないけど、ダメ人間にしかならない気がする。
「気にしない訳ではないんだが」
「んー?」
「ホワイトデーに託けて甘やかそうと思っていたのに、実に残念だ」
「……それは残念だったねえ」
「来月のお前の誕生日に持ち越そう」
「うん、そうして」
来月そういえば私は誕生日だったっけ。本人でも忘れてたのに、アーサー君はよく覚えている。
「あ」
「なんだ」
「来月の初め頃実家帰るね」
「そうか、当日までには帰ってくるように」
せいぜい滞在しても二日がいいところだから、四月十八日の誕生日には余裕で間に合うように帰ってこれるだろう。間に合わないように帰ってきてしまうと私はバイトに行けなくなってしまう。
「あ」
「今度はなんだ」
「菜々ちゃん今月いっぱいでバイト辞めちゃうんだって」
「そうか」
菜々ちゃんは今年こそ卒業ができそうということで、これからもフリーターではやっていくけれど、一つの区切りとしてこちらのバイトを辞めてしまうらしい。私はまだ来年も多分このバイトを続けているだろう。特に不満もないし。
ただ、再来年まで続けているかと聞かれてると、どうだろう。
「アーサー君、今の職場辞めるって言ったらどうする?」
「……どうもしないが、辞めたいのか?」
「ううん」
辞めたいということは思ったことは多々あるけれど、職場自体が嫌だとかそういうことではなく、お客様が本当に嫌だという時にそう思うのであって、出勤前、仕事行きたくないなぁとはあんまり思ったことはない気がする。というよりさっさと辞めたい職場なら、私は就職を蹴ってまで今のバイト先に居残ろうとは思わなかっただろう。
「ただ、そろそろ潮時なのかもしれないなぁ。なんて思ったりもして」
「そうか、それでもお前が決めた道なら俺は止めはしない。お前の進む道がどんな道でも、俺という味方がいることを知っているならそれでいい」
「え」
おそらく、今の私は目を丸くしていることだろう。
「え、何。セリフが格好よすぎてキレそう」
「そんなことで滅多に使わない怒るという感情を使うな」
そんな風に怒られるの初めてだ。
そして私のセリフに対してノータイムでその切り返しができるアーサー君すごいと思う。
そっかぁ、私がどんな選択をしてもアーサー君は味方でいてくれるんだ。それは、とっても心強いなぁ。
それが心から嬉しくて、アーサー君に抱きついてしまった。




