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【本編】お疲れ様、いただきます【完結】  作者: 山西音桜
second season
63/74

「うん、一応」

ホワイトデー。なんでバレンタインデーのお返しを貰うのにホワイトデーなんだろうって思っては特に調べたりせずに今まで生きてきた気がする。まぁとりあえず生きていく上でバレンタインデーとホワイトデーの関係性だけ知っていれば問題ないかなぁなんて思ってしまったりもして、結局どうしてホワイトデーという名前なのかを知らないまま毎年その日を迎えることが多い。

今年に限っては、その日を認識していたにもかかわらず、今年は私が渡す側だったので、貰うことをすっかり忘れていた。


「みっちゃん、バレンタインデーありがとー」

「これ、俺と上野から」


上野さんと有村さんが二人で渡してくれたのは、小さなピンクの紙袋。同様の袋が後二つ、バックルームの机にちょこんと載っている。蛍ちゃんと夕夏ちゃんの分だろう。私たち三人で一つ職場に持ってきたから。

普通こういう場合はみんなで食べれる物を、という形になるのかもしれないが、それは有村さんたちの「お返しをしたい」が勝った結果こうやって個々にお返しをくれているらしい。お礼を言って受け取れば、ファンシーな柄の小さな箱が入っていた。おそらくデパートなんかで売っているお菓子だ。

有村さんがフロントに行ったのだが、上野さんは暇だからまだのんびりとする予定らしく、バックルームの椅子に座っているので、そういえば、と思い出して尋ねてみる。


「上野さんは結局彼女さんから貰えたんですか?」


バレンタインには、宵風さんが何か悩んでいたような気がした。


「んー、うん。めっちゃ美味しいやつ」

「宵風さんって料理上手そうですよね」

「全然得意じゃないです」


バックルームに入ってきたのは、宵風さんだった。どうやら上がりの時間らしい。まだしばらく来ないと思っていたから、宵風さんの名前を出してしまったので、やらかしてしまったと冷や汗をかいた。ここで動揺すれば、尚更宵風さんが動揺するだろうことは予測できたので私は取り繕って普通に挨拶をする。


「ひなちゃんお疲れー」

「お疲れ様です。なんで私が料理得意そうな話になったんですか?」

「ひなちゃんがバレンタインでくれたなんだっけ、小さい奴。美味しかったって話してたから」


宵風さんも私たちと同じく皆でつまめるように、タッパーに手作りのブラウニーを持ってきてくれていた。そっちの方が安く上がったかららしい、上野さんの分を作るのについでにということなのだと思ったけど。


「あ、そうだ人吉さん。これ。ホワイトデー、私と紗姫からです」


私がバレンタインにあげたのは何度も言うけれど、蛍ちゃんと夕夏ちゃんと合同にあげたちょっとデパートでお値段がする(そうは言っても、三人で分割したからそんなに出費はない)チョコレートだ。宵風さんと紗姫ちゃんからというお返しは入浴剤だった。


「え、いいんですか?」

「いえ、私たち貰った側なので、いいんですかも何もないと思うんですが」

「いや、だって」

「紗姫がいつもお世話になっているから奮発したいと言い出したので、私もそれに全力で乗りました」

「乗らないでください……」


でもありがたい。こういう入浴剤とかは大好きだ。

そういえばアーサー君が来てから入浴剤なんか入れたことなかったけど、アーサー君は入浴剤とかの匂いは平気かな。


「ありがとうございます。早速使いますね」

「はい。じゃあ私はこれで」


出勤の時間になったので、タイムカードを押した。


それから二時間程働いていた。

そういえばバレンタインデーてチョコレート系のパフェとかが増えていたけれど、それもホワイトデーになると姿を消すのかと思ったら、普通に存在しているの少し滑稽に思えるのは私だけなんだろうか、なんて、久しぶりにパフェのオーダーを作りながらそんなことを考えた。本当に久しぶりなので、ホイップの形が少し歪になった。

カラオケ店のパフェで少し歪だけどまぁ、うん、許容範囲かなって思った時はそれは少し不器用な店員が作ったんだなぁと思ってください。

必死に盛り付けでホイップを立て直す。立て直すだけの術なら私は一人前って昔いたチーフさんに褒められた。それは褒められてはないのだけど。


「三階いってきまーす」

「はーい」


キッチンからホールに出て、人にぶつかりそうになって危なく止まる。


「ああ、人吉さんおはよう」

「おはよー」


國橋君だった。軽く挨拶だけして、階段を上がっていく。

注文をいただいたお客様の部屋について、三回ドアをノック。しゃがんで提供しないといけないので、注文の品をお客様からは少し遠い場所に置いてから、一礼して扉を閉める。

ここまで一つの流れ。空いてる部屋があったらそのついでに掃除をするけど、今現在空いてる部屋はただの空き部屋で掃除する必要もない。


「お疲れ様ですー」

「お疲れー、人吉さん、はいこれ」


國橋君がそう言って差し出してきたのは、コンビニで買ってきたのであろうお菓子と、私が最近『ミュージカル』のクリアファイルだ。しかも私の好きなキャラのイラストだ。


「え、なにこれ!?」

「ホワイトデーのお返し」

「よく私の嫁知ってたね?」

「アーサーに聞いた」


そういえば最近コンビニに立ち寄ることがなかったからすっかり忘れてたけど、コラボキャンペーンがもう始まっているんだった。こうなってくると嫁の番のファイルももらいに行かなければ、と思うのがオタクの性だ。


「ありがとう國橋君!」

「どーいたしまして、そういえば二人ってホワイトデーどうすんの? お互い送り合ってたよね」

「んー? アーサー君がどうするのかは知らない」

「人吉さんはなんか考えてんの?」

「うん、一応」


バラをもらったあの日から、描いていたホワイトデーの予定は滞りはおそらくないと思う。

予約したお店にも問題はないと言われているし、明日はそのためにお休みまで貰ったし。

アーサー君が喜んでくれるか、少しドキドキする。だってホワイトデーに喜んでもらえるかどうかを考えてプレゼントを考えるなんて初めてだ。今までの私は兎に角ギリを果たすためにプレゼントを友達に送っていたから。

もしかしたら怒られてしまうかもしれないなんて、思いながらプレゼントを考えたのも多分これがきっと初めてだ。

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