「それは流石に言い過ぎだと思うの」
「みな美ちゃん、完全復活!!」
三人がお見舞いに来てくれた翌日、目が覚めると寒気はなく、熱っぽさもなければ喉の痛みも引いている。何より体は軽かった。漠然と「調子が戻った」と感じた。
ロフトから降りるや否や宣言した私に近づいて、アーサー君は私の額に手を当てる。
「ん、熱は下がったな」
「うん、もう大丈夫!」
「そうか」
額に当てられていた手はそのまま肩に移動する。アーサー君の顔が私の首筋に埋められて、気づいた時には牙を立てられていた。そのまま、少しだけ血を吸って、アーサー君は離れる。
「……ん。完全復活は嘘じゃないな。いつもの味だ」
「そんなことで健康状態はかってたの?」
健康診断いらず、吸血鬼便利だな。
そういえばここ三日くらい私が風邪だったから、アーサー君は血を吸っていなかったことになる。というか最後に血を吸われたのは先週くらいだった気がする。それが無理させていることなのかどうかすら、私はわかってない。でもアーサー君は何も言わないのだ。
「朝ごはん」
「できてるぞ」
アーサー君はいつから動いているんだろう。私が起きる時には絶対に朝ごはんが出来ているのだ。ご飯とお味噌汁と卵焼きが並べられた食卓に、手を合わせて、一礼。
「ねえ、アーサー君。何であんなことしたの?」
「あんなこと?」
「蛍ちゃん達を見舞いに寄越すようなこと」
おかげで私は泣きそうになってしまった。まぁ泣きそうになってしまっただけで、実際泣かなかったのは本当に、よく堪えた私と褒めてあげたい。
「お前は、人間の友達がいないだろう」
「いない、訳でもないけど」
「けれど、今現在お前のために休みだとか、出勤前に見舞いに来てくれるような友人はいるか?」
そう言われるといない。
というか、今まで私が友達だと認識してた人達には風邪をひいたということすら言わなかった。
いや、普通は言わない。学生の頃ならいざ知らず、社会人になって「風邪をひいた」なんて言ったところで、彼氏でもなんでもない友達にしてみれば「だから何?」以外に返す言葉はないんだから。
「そういう友達をお前は大事にすべきだと思ったんだ」
「私がエリザベスさんみたいに、アーサー君に依存しちゃうから?」
「お前はあいつみたいにはならないよ。リジーみたいにはならなくとも、俺だけを拠り所だと思わないで欲しい」
実際、お前を心配しているのは俺だけじゃなかっただろう。
そう、アーサー君は続けた。
なんで、私みたいなのをと思わないでもないけれど。
「お前がそういう人間だからだ」
「あれ、私今口に出した?」
「言わなくてもわかる。『なんで私みたいなのに皆優しいんだろう』とか、大方そんなことを考えていたんだろう」
「よくおわかりで」
「しばらく一緒にいるからな。それくらいはわかる」
そっか。私はアーサー君の考えてることはあまりわからないのだけれど。それは分からなくてもいいからって、アーサー君が読ませていないのか。それとも私の読む力が弱いのかどちらなんだろう。
「皆、お前に貰ったものを返そうと思えるいい人間ばかりなんだろう」
「アーサー君って、最初この街の人間冷たいみたいなことを言ってなかったっけ」
「言ってたな。あの店にこの街のいい人間が凝縮されていたのかもしれない」
「それは流石に言い過ぎだと思うの」




