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【本編】お疲れ様、いただきます【完結】  作者: 山西音桜
second season
58/74

「いつもありがとう。私を甘やかしてくれて」

扉の開く音がする。

一人で過ごしていた頃は、その音は絶対に聞こえないもので、聞こえないことの方が安心だったのに、今はその音がすごく嬉しい。


「アーサー君、お帰り」

「ただいま」


ロフトから降りると、足元がふらついてアーサー君に抱きとめられた。私はアーサー君の首に手を回す。ほとんど無意識の行動だった。


「アーサー君……」

「ああ、どうした」


ぐずった子供みたいに鼻をすすりながら、言葉を発することなくアーサー君に抱きついていた。アーサー君は優しく私の背中をさすってくれている。さっきまで寒かったけれど、今は少しだけ暖かくなった。


「どうした?」

「なんでもない、ちょっとこのままいて」


鼻が詰まって、ちょっと舌ったらずみたいな声になっている。声も少しおかしい。熱もまだ引いていないようだ。あれだけ寝たのに、まだ治ってないんだ。

アーサー君にくっついて少し時間が経った。まだ離れたいとは思わない。人肌恋しいってこういうことなんだろうか。でも多分、アーサー君以外にこんな風にはしない。こんな風に甘えることを私はしてこなかった。


「どんどん、我儘になっていくな、お前は」


ふっとアーサーくんが笑う。呆れてしまっただろうか。

「我儘」なんて初めて言われた。


「ごめんね」


離れようとすると、逆にアーサー君が私の背に回した腕に力を込める。


「呆れてるんじゃない。お前はそれぐらいでいいんだよ。俺にまで気を使わなくていい」


というか使うな、なんて付け足された。それから優しく背中をさすられる。人の温もりに、ただ安心する。

そういうことを言うのはお母さん以外にいなかった。こんな風に抱きしめてくれるのも。お母さん以外にはいなくて。でもアーサー君はお母さんとも違う。こんなに、安心して甘えれる。


「前にも言ったかもしれないけど、私アーサー君に凄く甘えてる気がする」

「似たようなことは言われた気がするな」

「ごめん、でもこれからも甘える」

「だから、謝るな」


アーサー君が私のこと優しくさすりながら怒るから、少しおかしい。

甘えていいのかな。甘えてて、いいのかな。甘えてるだけで、私はいいのかな。私はもう少し、しっかりした大人になりたかったはずなのに。そんな大人になるって決めてたのに。


「私、アーサーくんの事好き、なのかもしれない」


恋か、どうかはわからない。親愛なのかもしれないし、友愛なのかもしれない。でもずっとアーサーくんにそばにいて欲しいっていう気持ちを、言葉にするのならこの言葉なんだと思った。今、口に出てしまった。


「かもしれない、なんだな」


アーサー君は私の頭を撫でてクスクス笑う。アーサー君は私に対して凄く愛しているって言ってくれてるのに、私はまだ「かもしれない」なのはおかしい事なのだ。おかしいはずなのにアーサー君は許してくれる。また私をそうやって甘やかす。


「いつもありがとう。私を甘やかしてくれて」

「どういたしまして」


まだ甘やかし足りないから、早く風邪を治してくれ。

そんな風に言われては、頑張るしかない。ただその為に薬を飲んだりしないといけないので。


「アーサー君、ご飯」

「ああ、わかった」

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