「それくらいのお金ならお姉さん稼いでくるよ!」
突然のことだった。
アーサー君が、「アルバイトをする」と言い出したのだ。たしかに今現在ネット通したアルバイトだって存在しているし、アーサー君はパスポートを手に入れたので、身分証明もできるから、アルバイトができないわけでもないのだけど。
「アーサー君、もしかして生活費足りてない!?」
「いや、そういうわけじゃない」
「じゃあ、なんか欲しいものがあるんだよね。それくらいのお金ならお姉さん稼いでくるよ!」
殴られた。
平手でおでこをぺしっと。地味に痛い。加減はしてくれているとは思っているけど、それでもちょっと痛い。
「痛い……」
「これ以上バイトを増やそうとするな。肩こりが加速するぞ」
「はーい」
おでこをさすりながら、返事をする。するとしょげていると思ったのか、アーサー君は慌てて、「いや、自分のために増やすなら文句は言わないんだが」と付け足した。それから、一緒におでこをさすってくれた。頭を撫でられているようで何かこそばゆい気持ちになる。
「でも急に本当どうしたの?」
物欲なんて無いに等しいアーサー君が、何かを欲していて、なおかつそれは自分の力で稼いだお金で手に入れたいなんて、一体どういう風の吹き回しなんだろう、というと流石に失礼だろうか。
「なんでもない。まぁ新年が明けたからな。心の入れ替え、みたいなものだ」
「ふーん」
たしかにそういうことをする人がいないわけではないから。おかしいわけではないのだけど、何か裏みたいなものがあるような気がしてならないのは、何なんだろう。
「國橋くんどう思う?」
「俺に聞かれても」
出勤前、國橋くんとバックルームで会ったので、アーサー君のことを聞いてみた。
アーサー君について、私より詳しいかもしれない國橋くんに聞くのが一番早い気がした。國橋くんの片手にエナジードリンクが握られているのは、國橋くんはゲームをしていて徹夜を決め込んだかららしい。少しは眠れたらしいけど、万全に業務をこなすには足りないのだろう。
「人吉さん誕生日いつだっけ?」
「四月」
「それまでに金貯めたいとかじゃないの。知らないけど」
絶対何か知っている。國橋くんはアーサー君情報に関して前科があるから、信用はできない。それでも何か、國橋くんにもアーサー君は何も教えてない可能性も捨てきれない。曰く、アーサー君がやることに対して國橋くんは馬鹿にすることが多いらしいのだ。
「そういや、もうすぐバレンタインだけど、人吉さんはアーサーにチョコとかやるの?」
「まだちょっと先じゃない? 」
「うちの職場に置いて、一ヶ月はすぐだろ」
その通り。
「うん、まぁ、あげるとは思うよ。チョコで喜ばれるかはわかんないけど」
「んじゃ、チョコプラスでなんか形残るもんあげたら?」
「なるほど」
何も相談してなかったのに、普通にアドバイスをもらってしまった。そんな会話をしていたら、出勤時間なので、タイムカードを切る。
ん、あれ?
「話逸らされた?」




