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【本編】お疲れ様、いただきます【完結】  作者: 山西音桜
second season
48/74

「また十二時間後!」

年末年始のカラオケ店は忙しい。

何故か。忘年会や新年会なんかで二次会に使うお客様が少なくないから。新しい店舗が出来てからというもの、私たちの勤務している店舗は、ただの厄介な客や大部屋を使用する団体の収容所と化していて、十二月中旬から一月末にかけての約一ヶ月半を私たちは地獄と呼んでいた。

そんなわけで、それではいっちょ気合を入れて。

カラオケ店の大晦日をご覧ください。


午後二十時。


「じゃあ、宣伝行ってきまーす」


宣伝に行く相楽くんを見送って、私と國橋くんはエナジードリンクを飲む。

年末に近づくにつれ、連勤している私たちの疲れは蓄積するばかりで、バックヤードのゴミ箱にエナジードリンクの空き缶が増えていく。私、國橋くん、上野さん、有村さんが積み上げていくからだ。ゴミ袋を変えるのを忘れると、宵風さんに怒られる。


「くあー、やるかー」


肩を回したり、背伸びをしたり、國橋くんがしている横で、私も大きくあくびをする。さて、やらねば。


大晦日なので始まるのがいつもよりも遅い。大晦日スレスレで忘年会を二次会までやる団体さんは少ないし、大晦日にカラオケで年を開けようなんて言う人も少ない。

本日のメインイベントは、これまでの疲労が蓄積されたスタッフvs初詣に行ったあと、盛り上がってカラオケに来るお客さん。その戦いのゴングが鳴るのは、だいたい深夜一時、二時を過ぎてから。


「やほー、國橋ー、みっちゃーん。今日のご飯は蕎麦だよー」

「やたー!」


フロントにいる上野さんに挨拶すると、金庫の上にカップ蕎麦が数種類入ったビニール袋が見える。このバイト先では毎年のことだ。上野さんか有村さんが蕎麦を買ってくれて、賄いがそれになる。


「蕎麦いいんでお年玉くださーい」

「んな余裕ねえよ、ばーか」


手のひらを上にして、お辞儀する國橋くんに、國橋くんの手をぺちっと叩く上野さん。まぁバイクの維持費なんかもあるだろうから、それはそうだろうなぁ。なんて思いながら持ち場に着いた。



午後二十二時。

ドリンクを運んでは部屋をセットし終えた頃、宵風さんが「今年もありがとうございました、良いお年、お年を……?」と、今年最後のあいさつをしてくれた。まぁあと二時間で今年終わるし、何より宵風さんと明日も会う。迷うのは仕方ない。おざなりに「良いお年をー」とキッチンにいるみんなで返事をして、宵風さんを見送る。

そしてそのタイミングで、相楽くんが宣伝で捕まえたらしい三人組を引き連れて店内に入ってきた。そして、お白湯を飲んでまた宣伝場所へと戻って行く。



午後二十三時五十五分。


「おっしゃ野朗どもー、いつものやるぞー」


一月一日になった瞬間に、フロント(だいたいこの時は誰もいない)にメンバー全員集まって、ジャンプをするのが毎年の恒例だ。五分前に上野さんか有村さんが招集をかけて、めちゃくちゃ忙しい時はそんな余裕ないけど、今はそんなに忙しくもなかったので、作業を一旦中止し、國橋くんも私も有村さんもフロントに向かう。


「さん、にぃ、いち!」


「「「「あけましておめでとうございまーす!!!」」」」


まぁ、すごくしょうもないことなのだけれど、年が明けた瞬間地球上にはいませんでした、と言うやつだ。だからなんだと言われたら、年越しそばを食べるようなものだから気にしないでほしいとしか言いようがない。要はノリだ。


そしてその直後に、「オーダーが入りました」と電子音が鳴るのもいつものことだ。


「ただいまー、さっみー!!!!」


相楽くんが、宣伝から帰ってきてお白湯を飲むのもいつものこと。


「宣伝まだ終わらないの?」

「三時までですってよー、オレじゃなかったら耐えてないってことあのクソ店長わかってねえっすわー」


行ってきます、とまた相楽くんが出て行く。



午前二時。


「うぇーー、テンション下がるー」


國橋くんが、セットから帰ってきた。どうやら嘔吐物を発見してしまったらしい。今回はキッチンをすぐ近くの少しだけ広い部屋の前で少量ではあるけどやらかしたお客さんがいた模様。


「んじゃ、私処理してくるよ。中よろしくー」

「マジでごめん。人吉さん」


カラオケ店員、というよりサービス業あるあるの一つに「嘔吐物に慣れる」というのが存在するとは思うんだけど、國橋くんは慣れないタイプだ。自分のはもちろん、他人のも見ると気分が悪くなるらしい。私は慣れたタイプ。

処理が終わると、宣伝が早く終わったらしい相楽くんが、休憩を取っていた。寒い中お疲れ様。



午前三時。

サービス業あるある。暇で「このまま終われ」と願っているときに限って、次の瞬間にお客さん(しかも結構大人数)が入ってくる。

今回は五人だったけど、すでに出来上がっていらっしゃる上に飲み放題で入られた。あと一時間でラストオーダーなので、一時間だけ飲み放題という形に必然的に鳴るのだけど。

正直、鳴り止まない「オーダーが入りました」に殺意しかわかない。締め作業が進まない。これもサービス業あるあるだと思う。


午前四時。

ラストオーダーの声をかけに、インターホンで聞くけれど、出ないことがほとんど。特にこの日は。まぁ初詣行って疲れてる人が大半なので。あと、歌ってる最中で聞こえてない人もいるにはいる。

そんなわけで一部屋一部屋回らなければならないのだけど、これがまた効率が悪い。そのために一人は割かなきゃいけないし、それで厨房の作業がどこまで追いつくかが勝負だったりする。


「失礼いたします、ラストオーダーのお時間です」

「後でまた、電話しまーす」


しないで欲しい。


午前五時。

ラストオーダーも終わって、閉店時間なので、全お客様に退店をお願いするのだけど、このお願いが通らないことの方が多い。寝てる人、もう少し歌ってたい人、理由は様々だけど、私たちにはどうすることもできない。年末だから時間を延長させろ、という上からの御達しもあるけれど、うちの店舗では微妙な行き違いで、お客様は「無料で延長できると思って延長した」という人もいるので、有村さんの計らいの結果、全てお断りしている。

結果お客様が全員帰られること、部屋を片付けること、キッチンの閉店作業諸々合わせて時間が超過することはよくある。


「帰って、マジで、帰って、帰れって……」


呪詛のような店員の言葉が、キッチン内に響くこともよくあるし、


「この残業代所得税に引かれるんだろ知ってる!!」


やけを起こした店員の叫び声も、キッチン内によく響く。



午前七時三十七分。


「お疲れー‼︎」


ようやく全ての業務が終了し、全員に別れを告げる。そして、皆口を揃えて次の瞬間こう言った。


「また十二時間後!」


仕事納めは、仕事始めと同義だったりするのだ。

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