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【本編】お疲れ様、いただきます【完結】  作者: 山西音桜
second season
47/74

「別に大した用事もないので」

「人吉ちゃん!」


十二月中旬のある日、出勤するやいなや、有村さんがすごい形相で私を呼んだもんだから、なんだなんだと驚いた私以外に、キッチンで暇していたらしい上野さんまでバックルームにやってきた。


「「はざいまーす」」


私と同時に出勤だった國橋くんと菜々ちゃんもバックルームにやってくる。あと一人足りないけど、深夜勤メンバーが勢ぞろいだ。


「ああ! 久保田ちゃんも!」

「え、有村さんなんです?」


私と菜々ちゃんは目を合わせてから首を傾げる。

何かしただろうか、シフトの入れ忘れとかやらかしたっけな。


「二人ともなんで、クリスマスにシフト入れてるの!」

「「え?」」


有村さんに言われたことが一瞬本当に理解できなかった。

とりあえず、シフトを入力し忘れたとかそういうことではないらしい。それには安堵したけれど。聞き間違えではなかったら、私はシフトを入れたことに関して、怒られたのだろうか。


「彼氏持ち二人揃ってなんでクリスマスにシフト入れてるのさ」


本当に絶望したみたいな顔で、有村さんは言う。上野さんは後ろでめちゃめちゃ笑ってるし、國橋くんは呆れたようにため息を吐いて、ジャケットを脱いでエプロンを巻いている。菜々ちゃんも目をパチクリとさせているだけだった。


「えと?」


つまりどういうことだ?


「クリスマスなんだから、彼氏と一緒に過ごしなよ! 」


ああ、なるほど。

有村さんはそういう人だった。クリスマスだからってシフトを削ったら怒る人は、たくさんいるらしいし、実際有村さんの前の人は欠員が出ようものなら、「入れないの?」ってしつこく聞いてくる人だった。それが間違いとは言わないけど。教育実習に行くから三週間ほど休みが欲しいと言った多瀬さんに対して、「なんで三週間も休むの? 教育実習って一週間くらいでしょ?」と平然と聞くのは本当に自分の仕事の安定にしか気を回していない人だったんだろう。

話が逸れた。

ともあれ、有村さんはシフトを少し削るとその理由をちゃんと聞いてくれるし、泊りがけの行事があるからと休みを取ったら「え、前日も入ってるけど、前日も休みなよー」とさっくり休みをくれる。良き上司だ。


良き上司、なんだけど。


「なんで、と言われても。別に大した用事もないので」

「というか、あたしは彼氏はいません」

「ダーリンがいるでしょ⁉︎」


ダーリン、というのはジャンさんのことだ。

あれからジャンさんは、足繁く通ってくれていて、決まって菜々ちゃんの有無を確認するので、最初に受付をした有村さんがはしゃいでいた。以降、有村さん達深夜勤メンバーがジャンさんを菜々ちゃんのダーリン、略してダーリンと読んでいる。


ジャンさんこんなに馴染んでるけど、いつ帰国するんだろう?


「年明けライブやるんで稼がないとなんすよ……」

「私も、来月発売のDVDとかいっぱいあるんで稼いどかないと」


結局私たちは色気より金なのだった。

だってこの日本という国では生きているだけでお金が掛かるし、趣味を続けるのにもお金が掛かる。


「人吉さんはコミケいかねーの?」

「私は、書店で買いに行く派なので」


一回行ってみたくはあるけれど、人混みがあまり得意ではないのだ。


「二人ともクリスマス休んだところで問題ないでしょうが!」


まぁ確かに、クリスマスとクリスマスイヴの二日くらいは休んでも支障はないけど。バイトする以外に何か選択肢があるクリスマスなんて私は久しく経験していないし。


そういえば、イギリスはクリスマスどう過ごすんだっけな。

それを聞いてから、決めてもいいかもしれないな。


そう思いながら、LINEをお送ると、「クリスマスも営業なのか……日本は大変だな」としか返ってこなかったので、もう普通にバイトをすることに決めた。

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