「全員で中に入ります、異論は認めません」
この人は、間違いなく、アーサー君の眷属さんだ。と確信できたのは、アーサー君の名前を知っていたこともあるけれど、目が赤いということもあったからだ。
「提供者ってまた、なんというか」
随分な言われようだなぁと思う。
「ああ、ごめんね。ちょっとそれっぽく言ってみたかっただけだよ」
「そうですか」
ノリノリなんだな。なるほど。
「あの、電車で髪の長い女の子と、二つくくりの女の子に声を掛けましたか?」
「ああ、あの髪の長いお嬢さんは君の知り合いだったのか、結構好みだったから今度本当にお茶をしたい」
菜々ちゃんが聞いたら信じられないものを見る目で見られるのだろう。ということは口には出さないでおいた。
「アーサー君に会いに来たんですよね、ちょっと待っててくださいね、今開けますから」
「ありが――「開けなくていい」
マンションの自動ドアが開いたのは、アーサー君が中から出てきたからだ。開けなくてもいいと言いながら開けちゃってるんだけど、というか、アーサー君めっちゃ怒ってるのは何でなの。
「アーサー君」
「みな美、お前は少し危機感を持て。リジーに襲われたことを忘れたか」
忘れたわけではないのだけど、水に流してる感はある、なんて言ったらまた怒られるだろうということは予測できたので、素直に謝ることにする。
「で、お前は何しに来たんだ、ジャン」
眷属さんの名前はジャンさんというらしい。
「貴方に会いに来た、というか、無事にリジーを僕のところに保護しましたと報告に」
「手紙でいいだろう」
「そんな無茶な」
確かに、アーサー君は根無し草だから住所もないし、もちろん手紙が届くはずもない。そういえば昔の映画とかで、主人公が立ち寄ったお店に手紙が届いたりしていたけど、あれどういう仕組みになってるんだろう。
「というか、アーサー君寒いから、中入りたい」
そして暖かいもの食べたいです。
「そうだな、ジャンと少し話すから、みな美は部屋に戻ってろ」
「なんで、ジャンさんも一緒に入ったらいいじゃない、立ち話もなんだし」
「却下だ。早く部屋に戻ってろ」
「あ、アーサー君が昔の話私に聞かせたくなかったりするの?」
「それもあるがそうじゃない」
どっち。
「ジャンが何もしないとは限らないからな」
「信用がないなぁ、まぁいいですけど」
話をするといっても、この辺にゆっくり話をできるような店はもう閉まっているのだけど、どうするのだろう。
「夜中だからな、別に立ち話をしていたところで通行人の目にも止まらない」
「えー、僕はもう疲れましたよ。ずいぶん待たされたんですよ?」
「知らん」
塩対応だ。
眷属には凄い塩対応だ、アーサー君。
「でもアーサー君本当に、私大丈夫だし、ジャンさんにも悪いし。私もエリザベスさんの話聞きたいし、ね」
「……こいつをできるだけ、お前に近づけたくないんだが」
それこそ何を心配してるんだろうアーサー君は。
「大丈夫ですよ、アーサーさん、僕もう少し好みの女の子を見つけましたので、その子には手を出しません」
「お前は好みじゃなくても手を出せる人種だろ」
「僕人間じゃないんですけどね、もう」
うん、もうなんかいいや。面倒くさい。
「全員で中に入ります、異論は認めません」
二人の背中を押して、自動ドアの中に入った。




