「へぇ、変な外人さんがいたもんだね」
「聞いてください、みな美さん!」
「なぁに、紗姫ちゃん」
前にも似たような絵を見た気がするけど、私が出勤するや否や、紗姫ちゃんがハイテンションで私に話しかける。
最近、早い時間の出勤がなかったから、あんまり会わなかったから、余計に彼女のテンションが高いように見えるのかもしれないけど、今日の場合はたぶん違う。
「菜々さんがナンパされたんです!」
「菜々ちゃんが」
菜々ちゃん、というのは大学生四回生のアルバイト。ただし、一年留年しているので、私と同い年。フルネームは久保田菜々ちゃん。今日は珍しく二人が一緒のシフトだった。二人は小学校からの幼馴染みらしい。先にバイトをしていた菜々ちゃんがアルバイトを探していてた紗姫ちゃんに紹介して、紗姫ちゃんもアルバイトに来たのだ。紗姫ちゃんは女の子らしい女の子だけど、菜々ちゃんはさっぱりとした男勝りな女の子だ。趣味はドラムで、アマチュアのバンドを組んでいてそっちに集中していて学校をおろそかにしたらしい。
「紗姫、余計な事言うなって」
「べっつにいいじゃないですか! めちゃめちゃ紳士で、もう、童話の王子様みたいでした!」
いつだったか聞いた覚えのある言葉に、何かがのどに引っかかったわけでも何でもないのに、咳き込む。
「どうしたんですか、みな美さん?」
「なんでもない。どんな人だったの? その王子様」
「金髪で、髪が長くて、やさしい微笑みの人でした!」
金髪で髪が長くて、やさしい微笑み?
私の中にぱっと浮かんできたのはアーサー君の姿だ。でも、アーサー君は私が出てくるとき、まだ寝てたから女の子をナンパしに外に出たとは思えない。
「何時ごろ?」
「バイト来る前だったから、17時くらいじゃないですかね」
「んー。じゃあ違う。知り合いじゃなかった」
「あ、みな美さんの彼氏さんとは別の人です!」
「え?」
今、紗姫ちゃんなんて?
「みな美さんの彼氏さんより全然髪短くて、肩くらいですかね?」
「ちょ、ちょちょっとまって、なんで紗姫ちゃん、アーサー君の髪の長さ知ってるの?」
「え、上野さんが写真見せてくれましたよ?」
上野さんは本当に余計なことをしてくれる。いや、この間のアーサー君への連絡は助かりましたけれど、でもそれだけだ。宵風さんはしっかり手綱を繋いでいてほしい。付き合っているのかどうかは結局知らないけど。
「今日、たまたま紗姫と菜々さんが電車一緒でになって、バイト先に向かおうとしてたんです。そしたら、その人に声かけられて、デパートの場所聞かれたんですけど、『ありがとう、お嬢さん。ところでこれからそのデパートでお茶なんてどうかな?』って菜々さんの手を取って! 映画みたいでした! しれっとデートに誘う男性素敵でした!」
誘ってほしい人からデートに誘われない人間の言葉は、たいそうな説得力がありました。まぁ、そういう人を好きになってしまったのは紗姫ちゃんなので、彼女自身の問題だと思うことにする。
「ま、あたしに声かけるなんて、外国人は日本人の若い女の子だったらなんでもいいんスかね」
「それはわからないけど」
紗姫ちゃんは可愛いアイドル系の顔をしているけど、菜々ちゃんは中性的な顔立ちをしていて、男装がすごく似合いそうだと蛍ちゃんが話していた記憶がある。ただ、男性的に人気があるのはやっぱり紗姫ちゃんのほうだと菜々ちゃんは思っているんだろう、自分に声をかける男性がいるはずない、みたいなことを思っているようだ。
「日本は楽しいですか? って聞いたら、『それが知りたくて来たんだ』って言ってました」
「へぇ、変な外人さんがいたもんだね」
その、おそらくうちのバイト先の女の子をナンパしたであろう変な外人さん、が。
「こんばんは。アーサー・ブラウンの血の提供者さん」
マンションの前で立ってて、なおかつ私に声をかけてくるなんてことがあるなんて、誰が思っただろうか。




