「少女漫画のヒーローか」
エリザベスさんが帰った後、季節は冬。
どうでもいいけど、わたくし人吉みな美は、冬が大嫌いだ。
大嫌いっていうか、苦手。
だって寒い。どうあがいても寒い。カイロを使えば何とでもなるのかもしれないけど、温めてくれる時間なんて、安いのだったらほんの数時間だ。
半永久的に温めてくれるカイロとか、存在しててくれないかな。誰か開発して特許取ってほしい。
エアコンってつけたら電気代食うし。去年だったら「背に腹は代えられない」ってつけてたけど、アーサー君と一緒になってからは、少し節約しなければと思うようになって、つけてない。
「ミノムシみたいだな」
毛布にくるまって、テレビの前から動こうとしない私を見れば、誰だってそう思うだろう。
現に同居人であるアーサー君がそう口にした。
「だって、寒い……」
「本当に苦手なんだな。大河はお前が宣伝にずっと立っていられるから寒さに強いものだと思ってるぞ」
「仕事の時は我慢スイッチ入るからね。家では入れられないから」
我慢スイッチ。別名仕事スイッチ。あるいはアドレナリンどばーの状態。もしくはトランス状態。
まぁ、人によって名称は違うと思うけど、とりあえず仕事に集中する、あるいは仕事だと割り切ることによって、何かしら我慢が効く状態のことを指す。
これを持っている人は、仕事ができる人か。仕事ができないけどやり続けてる人かのどっちかだと思う。
なぁなぁにやってる人ほど、このスイッチを入れられなかったりする。
「そういえばアーサー君。なんで上野さんの下の名前知ってるの?」
「一度慎也を交えて、酒を飲んだことがある」
「へ?」
初耳ですけど、と言ったら「言ってないからな」なんてしれっと言われる。
「俺が家出してた時の話をしたら、お前は機嫌が悪くなるだろう」
「あー」
話に聞くと、アーサー君が國橋君の家に滞在してるとき、偶然上野さんが國橋君の家に泊まりに来たことがあったらしい。その時にお酒を飲み交わしたのだそう。國橋君と上野さんの関係は何なのだろう。片恋同盟?
「恋バナとかしてたの?」
「まぁ多少は」
何それ、横で聞き耳立てたい。
「まぁお前の前では話さないとは思うが」
「なんで」
「どこからレディにバレるかわからないからな」
この場合のレディは、夕夏ちゃんになるのだろうか。まぁアーサー君が会ったことがあるうちのバイト先の女の子って、夕夏ちゃんと蛍ちゃんだけだし。
「ってことは、エリザベスさんのこと連絡してくれたのって……」
「大河だ」
あの時國橋君はいなかったから、アーサー君への連絡手段はなかった。私がスマホをいじれる隙なんてあるわけもないのに、アーサー君が良すぎるタイミングで来たのはそういう理由があったのか。
「少女漫画のヒーローか」
「その場合ヒロインがお前になるな」
いつものことではあるんだけど、アーサー君は本当にそういうことをサラッという。どこで覚えてくるというのだろう。もしくは、イギリスで同じようなことを言われていたのだろうか。
「ああ、『貴方はどうして吸血鬼なの』とか『童話の王子様みたい』は、言われたことはあるな」
『貴方はどうして吸血鬼なの』って、シェイクスピアか。
「それに対して、ヒロインだと答えた女子の数を答えよ」
「何しろ、ずいぶん昔のことだから覚えてはいない」
わー、プレイボーイな返答だー。
「何せ何年も使っている口説き文句だ」
「へー、アーサー君最低だー」
「そう問うのは、レディ花恋くらいの子供だったけれどな」
なるほど。
「つまり、私が幼いと言いたい」
「お前がやきもちを焼く必要はない、と答えたつもりだったんだが」
「日本語って難しい」
「英語で言おうか?」
「今伝わったから、大丈夫です」
みな美、と低い色気のある声で言われて、毛布をはぎ取られる。
「あーさーく……」
寒いから毛布返して、と言おうとしたけど、最後まで言うのは叶わなかった。
早い話が、後ろから抱きしめられたからだ。
「何ですか、アーサーさん」
「そろそろ純粋に口説かれて欲しいのだが、その願いはいつ叶うかな」
とりあえず、背中だけじゃなくて顔もあったかくなってるから、叶ってるんじゃないですかね。




