「ダメ!!」
「みっちゃーん、もうすぐ休憩終わりだよねー?」
大きな音を立てて、お客様が相手だったらクレームになりそうなくらい勢いよく、上野さんがドアを開いた。ただし、ドアの勢いに反して、本人の口調はまったりしたものだし、表情も平常運転だった。
返事をしようにも、彼女の手が首を締めているから、声なんか出なかったけど。人を殺そうとしたら第三者が入ってきたときの対応を考えていなかったのだろう、一瞬彼女の動きが止まった。視線は彼に向けたまま、それでも私の首を絞める手を緩める気はないようだった。それほどまでに激しい、殺意。
「お客様、何をなさっているんでしょうか? 警察を呼びますよ」
「わたくしに警察など、無駄なことですわ。それにその前に、貴方を殺してしまっても構わなくてよ。一人や二人増えたところで、大した手間ではございませんもの」
私の首からようやく手が離れる。彼女が立ち上がったのを見て、私の中で珍しく、怒っていた。
私に手を出されるのもいい。殺されるのは、あんまりよくないけど、被害者が私だけだったら文句は言わない。
ただ、上野さんまで巻き込むなら話は別だ。上野さんが、私に巻き込まれて宵風さんとの未来を妨げられるなんてことはあってはならない。
「ダメ‼」
立ち上がった彼女の手を強く引く。
意表を突かれたようで彼女は、すんなりとソファにもう一度座り込んだ。
「上野さん早く! 警察!」
と、思わず叫んだけれど、警察なんか呼ぶ前に私は殺されるだろうし、そもそもどうやって警察が彼女を捕らえるというのだろうか。わからない。とりあえず彼女の手はがっちりとホールドを保つとして、ここからどうすればこの状況を切り抜けられるのか。
「大河、そこを退いてくれないか」
考えていたら、声がした。
家にいるはずのアーサー君の声。
「あーさー、君」
上野さんが、部屋を出て、入れ替わりにアーサー君が入ってくる。
それを見た瞬間、私の手を振り払って、彼女は立ち上がった。
「お兄様! お兄様お兄様お兄様!!」
どうやら本当に、というかなんというか。彼女はヤンデレなんだなぁ、と思う。だって行動が完全にその属性のキャラクターと一致してる。アーサー君に駆け寄って、胸の前で手を組んで目をキラキラさせてアーサー君を見る。
「お兄様! 探しておりました! ずっとずっと探しておりましたのよ! わたくしとイギリスに帰りましょう! また共に暮らしましょう!」
「それはできない」
きっぱりと、冷たくアーサー君は言い放った。
聞いたこともないような冷たい声で、怒ったときの声だと思ったし、その声に呆れが含まれてるということも何となくわかった。
「どうしてですか!? ずっと一緒にいてくれるといったのはお兄様ではないですか!」
「ああ、確かに言った」
そう、なんだ。じゃあなんでアーサー君、フランスだとかをフラフラして私のところまで来たんだろう。
「それを破ったのもお前だ、リジー」
……え?




