「私がお人よしだからです」
エリザベス・カーターと彼女は名乗った。
傅きたくなるようなその美貌には、よく似合った名前だと思ったけど、そんなことはどうでもよくて。
私にとって重要なのは、アーサー君が彼女は眷属にしたこと。
「お兄様は、わたくしの命の恩人なの」
ロンドンで、孤児だった彼女。
近所の大人からも、子供たちからも迫害されていたらしい。どうも親がいない子供に対して優しくしようという環境が彼女の周りではなかったようだ。
食事もままならない。もちろん財産なんてありはしない。餓死寸前だった彼女を拾ったのが、アーサー君だった。
食べ物を与え、生きていくための知恵を与えた。そんな時にエリザベスさんはアーサー君の正体に気づいたようだ。
「だって、わたくしには食べ物を与えるのに、自分は召し上がらないのよ? 不思議に思うじゃない」
それはそうだ。
「そして、食べ物が要らないなら、わたくしもそうなりたいと思ったの。それでお兄様に頼んだの、眷属にしていただけるように」
確かに、食べ物もいらなくて、疲れも知らないなら、そっちの体の方が便利だ。
だからこそ、私は眷属にしてもらえないんだけど。
「わたくしの傍にずっといてくださるとおっしゃっていたのに。お兄様は突然姿を消したの」
「なんで?」
「わからないから探してたんじゃない。貴女思考はきちんと回転していて?」
「はい、すみません」
さすがに美人にそんな風に言われると傷つく。
「でも、アーサー君、ずっとフランスとか回ってて、日本に来たのはずっと最近だって」
私がアーサー君の近くにいる人間だってわかったのなら、なんでフランスとかにいたアーサー君は見つけられなかったんだろう?
「お兄様の気配と、眷属の気配はとても似ているのよ。だから転々と作られた眷属に惑わされて、こんなにも時間がかかったの」
「へー」
そんなことあるんだ。
「貴女、アーサー様に吸血されているのに、眷属ではないのはどうして?」
「私がお人よしだからです」
「は?」
エリザベスさんは、本当に「きょとん」とした顔をしていた。
もしかしたらお人よしという日本語が、どういう意味なのかを分かんなかったからかもしれないし、私の言葉の意味が本当にわかってないって感じの顔をしていらっしゃった。
「私は、どうしても人のために何かしようと思っちゃう人間なんです。傷もすぐ治る、病気をしない。そんな体になったら、私はずっと人のために働き続けてしまう。だから眷属にしないってアーサー君は言ってました」
「はぁ……。貴女は、アーサー様の何?」
「さぁ」
愛されてる人間、とはさすがに言えない。
「もし、貴女にとって、お兄様が何物でもないのなら、わたくしに返してちょうだい」
「いやです」
アーサー君が私にとって、何か。それは勿論「拠り所」だ。
ただ、彼女と違って私は家族がいる。だから本来彼女の方がアーサー君を必要としているんだろう。
でも、私とアーサー君は約束してしまった。私が死ぬまでアーサー君は傍にいてくれる。
「アーサー君は、私が死ぬまで、私の傍にいます。あと数十年、待ってください」
私がそういうと、彼女はまたあの、妖艶な微笑みを見せて。
「なら、今ここであなたを殺せば、あの方はわたくしのものになるのね」
あ、ヤンデレだこの人。
うすうす気づいていたことで、しかも絶対今確認することじゃないだろうなってことはわかったけれど、それでもそんな感想しか出てこなかった。




