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【本編】お疲れ様、いただきます【完結】  作者: 山西音桜
second season
35/74

「煩悩が勝ったって言わないそれ?」

「あぁ~、そこそこ~」


 久しぶりに、アーサー君がマッサージしてくれるというので、お言葉に甘えた。

 アーサー君がマッサージしてくれるのは、主に肩と首。さすがに腰とかはマッサージするのは気が引けるらしいので、暇ができたときに整骨院に行って、きちんとマッサージしてもらっている。

 

「しかし、少し柔らかくなったな、お前の肩」

「本当ー?」


 ずっと同じ姿勢ではあるし、休みもパソコンに向き合ったり、テレビ見るばっかりだから、いつもと変わってないのだけど、やっぱり定期的にアーサー君がマッサージしてくれたのが聞いたのだろう。

 あと、バイト中暇があったらやってる肩回しも効いてるのかも。


「ああ」


 耳の後ろから、首を撫でられる。なんかくすぐったくて変な声出たけど、そんなことは気にする暇がなかった。

 首元に近づいてくる気配が感じられて、耳に自分のじゃない髪の毛がかかる感じ。

 首に、息がかかったと思うと、次の瞬間には首元に噛みつかれていた。


「あ、アーサー君?」


 耳のすぐ傍で、液体を啜る音が聞こえる。ついでに、液体を飲み込むときののどの音。

 吸われている、私は今、血液を吸われている。


「アーサー君!」


 最近慣れてきたからそんなに感じてなかったけど、吸血鬼に吸血されるときは官能的な快楽を覚えるのだ。

 今、私は凄く恥ずかしい。顔が熱い、体が火照っている感覚がする。血液供給することが契約条件なので止めはしたくはないけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。


「アーサー君、そろそろ」

「ん」


 牙が肩から離れたと思うと、最後にペロリと一舐めされた。


「ひゃぁっ」


 変な声が出てしまった。何せ、その辺の感覚は敏感なもので、実は後ろから首を触られるのも苦手だし、ショートカットにする際に、襟足をマシンで剃られるのもあんまり好きではない。

 だから舐められたりするのも、私の精神安定的な意味では本当によくない。

 変な声を出したのも不可抗力。


 なのだけど、アーサー君は何を呆れたのかはわからないけど、私の左肩に額を預けて、深く深くため息をついた。


「何?」

「今己と戦ってるから、ちょっと待ってろ」

「りょーかい」


 だったら距離は取って欲しい気はするけど。なんか甘えられてるみたいで悪い気はしないので、肩は重いのは我慢してそのママの体制でしばらく静止。

 髪もくすぐったいけど。

 たっぷり一分はそのままの状態でいて、そろそろスマホをいじりたいなと思い始めたころ、ようやくアーサー君の頭が肩から外れた。

 と思ったら、多分さっき吸血したところに唇だけ触れて、小さなリップ音を立てた後、私の頭を二度ほど軽くたたいて、「飯何がいい」といつものアーサー君に戻った。


 今のは、己と戦って、理性が勝った結果なのだろうか?


「煩悩が勝ったって言わないそれ?」

「何のことかな」


 ふむ、イギリス男子は、都合の悪いことを口で回避するのはうまいので、これ以上は追及しないことにしよう。


「今日のご飯は、鮭がいいです」

「お前はアニメに影響されすぎだ」


 料理系のアニメが最近流行ってるので、ついうっかり見てしまうと、やっていたメニューを食べたくなるのはもう抗いようがない性というかなんというか。


「そーいえばさ」


 先ほど肩から吸血されて思い出した。


「眷属って吸血されたらなっちゃうものなの? 儀式的なものが必要なの?」


 とてつもなく今更な質問だが、まぁいいだろう。

 吸血されただけで眷属になるなら、私はとっくになっているし、アーサー君が眷属にできないと悩むこともないのだけど、いろんな情報を知っているが故の質問だ。


「吸血鬼の血を人間に送り込めば、その人間は眷属になる」

「はぁー」

「だから」


 お前は間違っても、俺の血を飲むなよ。


 とても真剣な瞳で、そう言われた。アーサー君のその瞳は、あの家出から帰ってきて話した時と同じ、不安そうな瞳。

 

「でもアーサー君が血を出すことがなかったら、多分飲むことはないと思うよ」

「ああ、それもそうだな」

「うん、だから安心して、今日のご飯を作ってください」

「わかった」


 アーサー君が冷蔵庫を開けて、私はスマホでイラストサイトのページを開いた。

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