「私、写真苦手」
弟たちが帰って行って、さて、洗濯物を籠に入れようとして、ふとある物体が鞄の中に入っていることに気づいた。
「あ、アーサー君。これ、國橋君にもらったんだけど」
「ああ、本当にくれたのか」
手のひらに収まるコンパクトサイズで、よく運動会などで保護者さんが持っていたような、そういう一般的なデジタルカメラだ。そんなに値段が張るものではない。けれどアーサー君が欲する理由も私にはよく分からない。
「何に使うの? カメコにでもなる?」
「なんでだ、お前が言い出したことだろう」
「ん?」
カメラ使うようなことを何か言ったっけ、私。
「お前がいなくなった後、お前を思い出せるものを残すと。手始めがこれだ」
「あー、なるほど」
確かになんで今まで思いつかなかったのか、不思議なくらい。
思い出といえば、写真と相場は決まっているのに。
「そうだね。写真、いいね」
でも私は、そんなに外に出るわけでもないし、アーサー君も日光だめだから、いい景色でも、写真に写せることってない。
「部屋全体と、あとは、あ、ロフトも、アーサー君しか見ないなら撮っていいよ?」
「なんでお前自身を撮るという選択肢がないんだ?」
その人の思い出を残すと言ったら普通はその人自身を撮るだろう。
人として当たり前のことを吸血鬼に突っ込まれてしまった。
「え、や、やだ」
「何で」
「私、写真苦手」
一度、実の父親に顔を殴られて、その顔が気持ち悪いから遠足の写真に一緒に写らないで、とその時のクラスメイトに言われたことがある。それから写真に写ることが億劫になって、小中高大の卒業アルバムに私が乗っているのは個人欄くらいのものだ。
「そうか」
そう言いながら、アーサー君は私に向けてシャッターを切った。
「アーサー君……」
話聞いてなかったのかな、この吸血鬼。
「俺しか見ないのだったら、いいんだろ?」
「ロフトはね」
「忘れたくないから」
「え」
お前の顔を、忘れたくはないから。
「俺は撮るぞ。第一」
思い出せる物を残そうと言ったのはお前なんだから、責任は持て。
そう言ってもう一回、アーサー君はシャッターを切った。
「……もう」
そんなことを言われては怒れない。許してしまう。
「可愛く撮ってね」
って、この顔だから無理か。
「俺はカメラマンじゃないから、それは無理だな。そうだな写真を撮るときは、俺がお前を愛しいと思った時にしようか」
アーサー君の指が、私の右頬に触れる。
イギリス人ってこんなに恥ずかしいことをいう人ばっかりなのかな。
どっちかっていうと今のセリフはフランスっぽい気がしないでもないけど。
「アーサー君」
「ん?」
「恥ずかしい」
顔が熱い。思わず顔を手で覆ってしまう。
顔の温度が上昇していく中で、静かな部屋にシャッター音が響くのを聞いた。




