小さな贈り物
今日一日、たくさんの店を巡り、美緒の腕には魔導書や買い物の品が増え、胸の中には、それ以上にたくさんの思い出が増えていた。
夕暮れの街を抜け、二人が学園へ戻ってくるころには、空はすっかり茜色に染まっていた。
寮の扉を開けると、玄関ホールにシルヴァンが立っている。
「そろそろ帰ってくるころかと思ってたよ」
「あ、シルヴァン!」
ティナが手を振る。
「シルヴァン、ただいま」
「おかえり、二人とも」
美緒の笑顔に、シルヴァンも穏やかに頷いた。
その横から、ティナが待ちきれない様子で口を開いた。
「ねえねえ、聞いてよシルヴァン! 美緒の杖はね――!」
「ストップ、ティナ」
勢いよく話し始めたティナに、シルヴァンは苦笑しながら手を出した。
「まずは夕食にしようぜ。ミオも腹が減ってるだろ? こっちだ」
「……あ」
そう言われてみれば、朝からいろいろなことがありすぎて、美緒は自分がお腹を空かせていることに気づいていなかった。
「うん」
「よし。じゃあ、こっちだ」
三人は連れ立って食堂へ向かった。
扉を開けると、温かな香りがふわりと漂ってくる。
長いテーブルの上には、焼きたてのパンに湯気の立つスープ。
香草で味付けされた肉料理に、色鮮やかな野菜の付け合わせが並んでいた。
小さな器には果物まで盛りつけられ、焼き菓子まで添えられていて、どれも見るからに美味しそうだった。
「すごいね……!」
美緒は思わず目を輝かせる。
「あ、今日は窓側で食べようよ!」
ティナに促され、三人はトレーを手に窓際の席へ向かった。
窓の外には、夕暮れの街並みが広がっている。
席に着くと、シルヴァンがスープを一口飲み、それからティナを見る。
「……で?」
「ん?」
「どうだったんだ?」
「ふふっ!」
待ってました、とばかりにティナの目が輝いた。
「それがね――!」
ティナは今日あったことを、身振り手振りを交えながら話し始めた。
美緒が、精霊王エルシュカの加護を宿した杖を授かったこと。
その杖は、想像もできないほど強大な力を秘めていること。
魔導書が山のように積み上がったこと。
話を聞き終えたシルヴァンは、しばらく言葉を失っていた。
「……すごいな、ミオ。
精霊王様の杖、なのか……?」
「そうなんだよ!」
ティナは大きく頷いた。
「普通はさ、精霊が宿る杖じゃない?
それなのに精霊王様だよ? いやー……感激したぁ……!」
「マックスさんも驚いてたんじゃないか?」
「驚いたなんてもんじゃなかったよ!」
ティナは楽しそうに笑う。
「伯父さん、目が真ん丸だったもん!」
「ははは!
なんだか目に浮かぶな」
シルヴァンも思わず笑った。
「……で?
買ったものは、ティナの魔法空間の中か?」
「そう!」
ティナは得意そうに頷いた。
「で、ね。ミオ……」
「ん?」
ティナは右手の指輪に魔力を流し込む。
淡い光を帯びた魔法陣が指輪の上に浮かび上がり、そこから小さな指輪がひとつ、ふわりと現れた。
「これを、ミオに」
ティナはそれを大切そうに差し出した。
「私からの入学祝いだよ!」
「……え?」
美緒は目を瞬かせた。
隣からリクが指輪を覗き込む。
『ほう……これは素晴らしい付与能力だな。
お前が錬成したのか?』
「そう!」
ティナが嬉しそうに答える。
「リク、分かるの?」
『まあな』
「え? ティナ、これって……!」
美緒は、手のひらの上に置かれた指輪をまじまじと見る。
ティナは胸を張った。




