買い物5
次に二人が向かったのは、古い魔導書を扱う古書店だった。
細い路地の奥にひっそりと佇む、年季の入った建物。
扉を開けると、からん、と小さな鈴が鳴る。
店内に足を踏み入れた美緒は、思わず息を呑んだ。
天井まで届くほど高い本棚が、壁という壁を埋め尽くしている。
棚には隙間なく本が詰め込まれ、古びた革表紙や色褪せた布張りの背表紙が、薄暗い店内に幾重にも並んでいた。
中には普通の本よりずっと大きなものや、金属の飾りが施されたもの、淡く光を放っているもの、鎖で棚に繋がれているものまである。
紙と革、それから長い年月を閉じ込めたような、独特の古書の匂い。
長い年月を重ねた本たちが静かに息づいているような、不思議な空気が漂っていた。
「いらっしゃい」
店の奥から、穏やかな声が聞こえた。
やがて、白髪に白髭をたくわえた店主が、ゆっくりと姿を現す。
「やあ、ティナ。
新しい魔導書かい?」
ティナはにこりと笑って首を振った。
「こんにちは。
今日は私のじゃなくて、彼女のを探しに来たんです。えっと、クラスは……」
ティナが言いかけたところで、店主は柔らかく微笑んだ。
「ふふ……回復クラスだろう?」
「えっ?!」
ティナが目を丸くする。
「分かるんですか?!」
「分かるよ」
店主は楽しそうに目を細めた。
「私の目には、強い癒しの光が見えているからね」
そう言って、美緒へ視線を向ける。
「どれ。見繕ってあげよう」
店主が片手をゆっくり掲げた。
すると――。
ぱたん。
棚の本が一冊、静かに開いた。
次の瞬間、別の棚からも本が飛び出す。
「わっ……!」
美緒は思わず目を瞬いた。
呼ばれるのを待っていたかのように、ぱたぱたと頁を揺らし、ひらり、ひらりと宙を舞いながら、魔導書たちが店主の前へ集まっていく。
やがて、机の上には小さな山ができる。
「こらこら」
店主は困ったように笑った。
「彼女の力になりたいのは分かるが、お前はまだ早いな」
一冊の本を指先で軽く押し戻す。
「ああ、お前も棚にお戻り」
魔導書は、しょんぼりしたようにふわりと浮かび、元の棚へ戻っていく。
「さて……」
店主は積み上がった魔導書を一冊ずつ手に取り、表紙を確かめていく。
「そうだな……」
しばらく考えたあと、店主は数冊を選び出した。
基礎的な回復魔法を記したもの。
魔力の扱い方を丁寧に解説したもの。
そして、治癒魔法の応用について書かれた、少し古い一冊。
「まずは、ここから学ぶといいだろう」
店主は、それらを美緒の手にそっと乗せた。
「学び終わったら持っておいで。
そうしたら、新しい子をまた選んであげるからね」
「はい!」
美緒は嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます!」




