買い物3
魔法陣の光が、静かに揺らめいた。
白い光が美緒の足元から立ち上り、細かな粒となって宙へ舞っていく。
やがてその光は一つに集まり――美緒の目の前で、人の姿を結んでいった。
長い髪。
白銀の光を纏った、ひとりの女性。
その姿は透き通るように美しく、輪郭さえ淡い光の中に溶けている。
足元には薄い霧のようなものが漂い、無数の小さな光の粒がふわりと舞った。
「……っ」
マックスが息を呑む。
「精霊……じゃない?」
目の前の存在を見つめたまま、言葉を失う。
「あ……あなた様は……!」
女性は、穏やかに微笑んだ。
『よくぞ、呼んでくれましたね』
その声は、不思議なほど静かだった。
『私は、この世界の精霊王……』
「せ、精霊王……様……っ?!」
マックスの声が裏返る。
女性――精霊王は、そんな彼の様子を微笑ましそうに見つめ、それから美緒へ視線を戻した。
『ようやく、会えましたね。
女神リーナの加護を宿せし者よ』
「え、あ、あの……?」
戸惑う美緒に、精霊王は、優しく微笑む。
『ふふ。私の名は、エルシュカ』
「エルシュカ、様……?」
『そうです』
その名を口にした美緒を、エルシュカは慈しむような目で見つめた。
そして、ゆっくりと手を差し伸べる。
『私の加護も、あなたに。
私は、これからあなたと共に――』
白銀の光が、二人の間で柔らかく揺れる。
エルシュカの指先から、淡い銀色の光がこぼれ落ちた。
その姿が、ふわりと揺らぐ。
「え……?」
白銀の光がほどけていく。
驚く美緒の前で、光は美緒の目の前で渦を描き、次第に形を変えていった。
やがてエルシュカの姿が完全に消えると、その場所には一振りの杖が浮かんでいた。
白銀の木を削り出したような、細身で優雅な杖。
その表面には、蔦のように細かな紋様が刻まれ、その一つ一つが淡い金色に輝いていた。
先端には、双月を思わせる銀色の輪があり、その中央には、朝露を閉じ込めたような透明な宝石がひとつ、嵌め込まれていた。
宝石の奥では、白、銀、淡い青――いくつもの光が静かに揺らめいている。
美しく、繊細。
そして、そこに宿る、隠しきれないほどの強い力。
杖はゆっくりと、美緒の手元へ降りてくる。
美緒は両手をそっと伸ばす。
「……きれい……」
指先が触れた瞬間、杖から柔らかな光がこぼれた。
「ありがとうございます……精霊王様……」
胸の前で杖を抱く。
すると、その言葉に応えるように、杖が優しくきらめいた。
光は美緒の手のひらを包み、温かな感触を残してそして胸の奥へと染み込んでいく。
やがて光は無数の粒となり、静かに空中へ溶けていった。
「…………」
静かになった店内で、マックスはしばらく言葉を失っていた。




