買い物2
風が頬を撫で、雲ひとつない青空がどこまでも続いていた。
「えっと、最初はねぇ……杖から選びに行こうか?」
「杖?!」
美緒の瞳が、また輝いた。
(すごい……! ますます魔法使いっぽい!)
「そうだよー! 自分の杖は必須なの」
「へえ……!」
「使い方は、最初の授業で教わるから」
「うん!
ありがとう、ティナ。
よろしくお願いします!」
「うんうん! ティナさんに任せなさい!」
「頼りにしてるよ!」
「あはは」
二人を乗せたほうきは、青空を高く、高く飛んでいった。
*
しばらくして、二人は街の一角にある店へ降り立った。
古い石造りの建物が並ぶ通りの中に、一軒の小さな店がある。
扉の横には、杖を象った看板が掛けられていた。
「ここだよ!」
ティナが扉を開けた。
「こんにちはー!」
「いらっしゃい……おお?」
店の奥から、少し低い声が返ってきた。
白髪交じりの髪に、人のよさそうな目元をした男性だった。
「何だ、ティナか。どうした?
また杖を折ったのか?」
「違うよ!」
ティナがぷくっと頬を膨らませる。
「っていうか『また』って、そんなに頻繁に折ってないってば!」
「ははは。そうだったか?」
「もう!」
あまりにも気安いやり取りに、美緒は目を丸くした。
「あ、あの、ティナ……?」
「あっ! ごめん、ミオ!」
ティナは慌てて振り返る。
「えっとね。こちら、マックス叔父さん」
男性を指差す。
「叔父さん、ミオだよ。今日から学園に入ったの!
だから杖選びに来たんだー!」
「あの……はじめまして」
美緒はぺこりと頭を下げた。
「ミオ、です。よろしくお願いします」
「これはこれは、どうもご丁寧に」
男性――マックスは穏やかに笑った。
「この子の叔父のマックスです。この子の母親の弟でね」
「あ、そうなんですね」
「えーと……ミオちゃん、だったね」
マックスは美緒をじっと見つめる。
「君に合う杖は……そうだな。
まずは聞いてみないとね」
「え?」
美緒は首を傾げた。
「聞く……ですか?」
「ああ」
マックスは頷くと店の中央に描かれた魔法陣を指差した。
「ここに立ってごらん、ミオちゃん」
「あ、はい」
美緒は言われるまま、魔法陣の中央へそっと足を踏み入れた。
足元に描かれた複雑な紋様が、淡い光を帯びる。
「わ……!」
傍で、ティナがにこにこと頷く。
「大丈夫だよ、ミオ。心を落ち着けてね」
マックスは二人のやり取りに微笑むと、杖を片手に持ち、静かに息を吸う。
店内の空気が、ほんの少し変わった気がした。
「……目覚めよ。杖に宿る精霊よ」
店内に、朗々とした声が響く。
魔法陣の光が、一段と強くなる。
「彼女の魂の片割れよ――」
美緒の胸が、どくん、と大きく鳴った。
「今ここへ、顕現せよ!」
その瞬間。
魔法陣から、白銀の光がぶわりと立ち上った。
それは、誰かが遠い眠りから目を覚ますように。
美緒は息をすることも忘れ、その光を見つめていた。




