双月の学び舎へ6
やがてシルヴァンが、モリーへ視線を向けた。
「寮へ行かれるのですか? 学園長先生」
「ええ。
その後、もしできれば、あなたたちで学園を案内してあげてほしいの」
「もちろんです」
モリーは頷き、それから少し考えるように続けた。
「それと、必要な買い物などは――」
「あっ! はいはいっ!」
モリーが言いかけたところで、ティナが勢いよく手を挙げた。
「学園長先生! 私、一緒に行きます!」
モリーは目を細めて微笑んだ。
「ふふ。ティナさんなら、お任せできますね。
よろしくお願いしますね」
「はいっ!」
ティナは元気よく頷くと、今度は美緒の手を取って、ぶんぶんと振った。
「ミオ、後で必要なもの買いに行こうね!」
「え、と……」
美緒の顔が、さっと青ざめた。
「どうしたの?」
「わ、私……お金、持ってない……」
「…………」
ティナが一瞬、きょとんとする。
それから――。
「あははっ!」
「えっ!?」
「大丈夫、大丈夫!」
ティナは楽しそうに笑った。
「お金はね、かからないから! 安心して!」
「そ、そうなの!?」
美緒が目を丸くすると、モリーも穏やかに頷いた。
「ええ。学園で必要になる物品は、基本的にすべて支給されます。
どうぞご安心くださいね」
『だから、金は要らないって言っただろ』
足元からリクの声がする。
「……そうだったね」
美緒は苦笑する。
するとティナがリクを見つめ、ぱっと顔を輝かせた。
「わあっ! ミオのパートナーって黒猫ちゃんなんだね!」
しゃがみ込み、嬉しそうに顔を近づける。
「よろしくね!」
『ああ』
リクはしっぽをゆらりと揺らした。
「……え?」
美緒が目を丸くした。
「え? ティナ、リクの言葉が分かるの?」
「分かるよぉ!」
ティナが楽しそうに笑う。
「ね、シルヴァン?」
「ああ」
シルヴァンも頷いた。
「この学園では、魔獣や幻獣と契約している生徒も多いからな。
意思を通わせるのは難しくない」
「……魔獣に幻獣っ? すご……」
美緒が感心しているとティナは笑顔で右手を掲げ、自分の指にはめられた指輪を見せた。
「あのね、私のパートナーはこの子なの!」
指輪から、淡い光がふわりと溢れる。
光は小さな幻獣の姿へと変わった。
狐にも似た可愛らしい姿。
大きな耳がぴんと立ち、ふさりとした幾本もの尾が揺れている。
その尾の先々には小さな光が灯り、揺れるたびにきらめいていた。
「名前はミスティっていうんだー! よろしくね!」
『よろしくねー! ミオちゃん、リクちゃん!』
「うわぁ……っ!」
美緒の顔が輝いた。
「ミスティ、可愛い!」
すると今度は、シルヴァンの足元に影が広がる。
ゆっくりと形を変え、やがて一羽の大きな鳥型の魔獣が姿を現す。
細く鋭い嘴と、夜空を思わせる深い色の羽。
金色の瞳が静かに美緒を見つめている。
その存在感に、思わず目を奪われる。
「こいつは、普段は俺の影の中にいる。
アークだ。よろしく」
『……よろしく、ミオ、リク』
「わぁ……!」
美緒は目を輝かせた。
「アーク、カッコいい!!」
アークは金色の目を細めると、ほんの少し翼を広げた。
リクは興味深そうに、ミスティとアークを見る。
『……なるほど。面白いな』
『リクちゃんも面白いよー!』
『ちゃん付けはやめろ』
そんなミスティとリクのやり取りに、ティナが笑い出す。
「ふふっ。
リクって面白いね!」
美緒もつられて笑った。
「ふふっ。では、ミオさん。そろそろ寮へ参りましょうか」
モリーの声に、美緒ははっと顔を上げた。
「あっ! はいっ!」
そしてティナとシルヴァンへ笑顔を向ける。
「じゃあ、後でね! ティナ、シルヴァン!」
「うん! また後でね、ミオ!」
「寮で待ってるよ」
木漏れ日の中、ティナが大きく手を振る。
美緒も笑顔で手を振り返した。
そしてモリーと並び、寮へ続く道を歩き始めた。




