双月の学び舎へ5
学園長室を出ると、エルファルはそこで足を止めた。
「では、私は塔へ戻りますね。
またお会いしましょう、ミオさん」
「はい。
エルファルさん、本当にいろいろとありがとうございました」
美緒が頭を下げると、エルファルは柔らかく微笑んだ。
「こちらこそ。
学園での時間を、どうか楽しんでくださいね」
そしてにこやかに手を振ると、廊下の向こうへと消えていく。
その姿を見送ってから、美緒はモリーの後について歩き始めた。
リクも、その足元をゆっくりついてきていた。
しばらく歩いたところで、彼はふと周囲を見回す。
『ずいぶん……変わったな』
ぽつりとこぼした声に、モリーが振り返った。
「ええ。あれから、ずいぶん増築されましたから」
モリーは歩みを緩め、廊下の壁に手を添える。
「建物も増えましたし、研究室もかなり増えています。
今では、研究員の方も昔とは比べものにならないほど多くなり、ずっと賑やかになりましたよ」
『そうか……』
リクはそれだけ答えると、再び前を向く。
その声には、静かな感慨が滲んでいた。
美緒は何も言わず、静かにリクの隣を歩いた。
リクにとって、この場所は昔、自分が作った場所。
変わっていくのは、きっと嬉しい反面、自分の知らない年月を感じるのだろう。
*
そんなことを思いながら歩いていると、やがて廊下の先に明るい光が見えてきた。
扉を抜けた先に広がっていたのは、緑に囲まれた大きな中庭だった。
「わあっ……!」
美緒の声が弾む。
大きな木々が幾重にも枝を伸ばし、その葉の隙間からこぼれ落ちる光が、地面に柔らかな模様を描いている。
色とりどりの花が咲き、小さな蝶のような妖精たちが、その間をふわふわと飛んでいた。
風が吹くたび、木々の葉がさらさらと音を立てる。
「なんて、素敵なの……」
「この中庭は、生徒たちの憩いの場所なんですよ」
モリーが微笑む。
いくつか置かれたベンチでは、生徒たちが本を読んだり、楽しそうに話をしたりしている。
少し先の木陰のベンチで、二人の生徒が談笑していた。
けれど、モリーの姿に気づくと、すぐに立ち上がる。
「学園長先生」
二人はぺこりと頭を下げる。
そして、その後ろにいる美緒にも気づくと、柔らかな笑顔を向けた。
「まあ。ちょうどよかったわ、あなた達」
モリーは美緒へ手を向けた。
「ご紹介しますね。
こちら、今日から学園に来られたミオさんです」
そして二人を順番に紹介する。
「ミオさん。
こちら、生徒会会長のティナさんと、副会長のシルヴァンさんです」
「よろしくお願いします!」
明るい声とともに、少女が手を差し出した。
「ようこそ、魔法学園へ! 私、ティナです!」
肩ほどまでの髪を揺らしながら、満面の笑みを浮かべている。
隣の青年も穏やかに微笑み、手を差し出す。
「シルヴァンだ。よろしく、ミオ」
「ミオです。よろしくお願いします。
えっと……ティナさん、シルヴァンさん」
美緒も笑顔で握手を交わす。
するとティナが、ぷくっと頬を膨らませた。
「ん、もう。ティナでいいってば。
ね、シルヴァン?」
「ああ、そうだな」
シルヴァンが苦笑する。
「ミオ、普通に呼んでくれ」
「ふふっ。
じゃあ改めて……」
美緒も自然と笑顔になる。
「ティナ、シルヴァン。よろしくね」
「うん! よろしく! ミオ!」
次の瞬間、ティナが嬉しそうに美緒へ抱きついた。
「わっ……!」
あまりの勢いに、美緒はよろめきながらも笑ってしまう。




