双月の学び舎へ3
「こちらです、ミオさん」
「はい」
美緒は、エルファルの少し後ろを歩きながら、魔法学園の中を進んでいた。
校舎の中は、外から見た印象よりもずっと広かった。
「わぁ……っ」
思わず、小さな声がこぼれる。
高い天井には、いくつもの魔法灯が浮かんでいる。
淡い光を放つそれらは、ふわふわとゆっくりと揺れ、廊下の壁や、磨き込まれた床をやさしく照らしていた。
廊下の両側には大きな窓が並び、そこから差し込む光と魔法灯の光が、磨き込まれた床の上で静かに重なっていた。
壁には、見たことのない文字で書かれた古い魔法式や、歴代の魔法使いたちの肖像画が飾られていた。
額縁の中の人物が時折瞬きをしたり、隣の肖像画と小声で話をしていたりする。
中には、絵の中で眠そうに欠伸をする老人までいる。
美緒がそっと見上げると、その老人は片目を開けて、こちらをちらりと見た。
「……っ」
慌てて視線を逸らす。
ときおり、壁に埋め込まれている魔法陣の描かれた大きな石板が、ふわりと青い光を浮かべる。
遠くからは、教師らしい人の声と、生徒たちの笑い声が聞こえてくる。
さらに進むと、廊下の一角には大きな水晶板が置かれていた。
そこには何かの文字が浮かび上がり、時折、内容が書き換わっていく。
「あの……これは?」
「掲示板です。
授業の変更や、学園からのお知らせなどが表示されます」
「すごい……。
本当に、魔法使いの学校なんですね」
美緒が呟くと、前を歩いていたエルファルが振り返った。
「ふふ。そうでしょう?
ここは、長い年月をかけて増築もされてきたのです。
魔法学園であると同時に、魔法を研究する場所でもあります。
古い資料や魔道具も数多く残されていますよ」
「私も……ここで勉強するんですよね」
「ええ。これからたくさんのことを学ぶことになるわ」
エルファルの穏やかな声に、美緒は少しだけ背筋を伸ばした。
ここで、これから魔法を学ぶ。
まだ自分が本当に魔法使いになれるのかさえ分からない。
けれど、この場所に立っているだけで、不思議と心が落ち着いた。
やがてエルファルは、最上階の大きな扉の前で足を止めた。
扉には、銀色の紋章が刻まれている。
「こちらです」
そして、軽く二度、扉を叩く。
「どうぞ」
中から女性の声が返ってくると同時に、扉はまるで誰かが内側から開けたかのように、静かにゆっくりと開いていった。
美緒はまたしても目を丸くする。
「ふふ。こちらへ」
エルファルに促され、部屋へ入る。
部屋の中には、大きな机といくつかの本棚が並んでいた。
窓からは学園の敷地が一望でき、その向こうには、双月の塔の街並みまで見える。
そして、その窓辺に一人の女性が立っていた。
茶色の髪を後ろでひとつに束ねた、穏やかな雰囲気の女性だった。
「エルファル、そちらの方が……」
女性が尋ねると、エルファルは頷いた。
「ええ、モリー。こちらがミオさんよ」
「まあ……」
女性は美緒へ歩み寄ると、柔らかな笑顔を浮かべて手を差し出した。
「ようこそ、ミオさん。学園長のモリーです」




