双月の学び舎へ2
エルファルの表情に浮かぶ、恍惚とした喜び。
それは、長い長い年月を越えて、ようやく待ち望んでいた宝物を目の前にした、深い感慨と、期待。
「本当に……」
エルファルは、うっとりと胸の前で手を組む。
「どれだけ待ちわびていたことか。
どれだけ……お会いしたかったことか……。
歴代の塔主の悲願が、今……っ!」
「あ、あの……? エルファル……さん?」
どんどん嬉しそうに輝くエルファルの表情に、美緒は少し身を引いた。
その瞬間。
「ですから!」
エルファルは突然、美緒の手を両手で、はしっと掴んだ。
「わっ!」
思わず背筋が伸びる。
エルファルは美緒の手をしっかり握ったまま、真剣な顔で告げた。
その瞳に、強い光が宿る。
「私は、双月の塔を司る者として――!
どこまでも、ミオさんをお支えします!」
「は、はいっ……!」
「何か困ったことがあったら、遠慮なく相談してくださいね!」
両手をしっかり握られ、美緒は目を丸くし、こくこくと頷くしかできない。
「魔法のことでも、この世界のことでも、なんでも結構です。
必ず、力になりますから!」
「は、はいっ!」
そのあまりの熱意に、美緒とリクの頬が引きつる。
どうやら、考えていることは同じらしい。
『……エルファル』
「はい?」
『少し落ち着け』
「まあ! 私ったら!」
エルファルのきょとんとした顔に、美緒は自然と笑みがこぼれた。
「あ、あの……ありがとうございます。
それは、とても心強いです!」」
「ふふ。そう言っていただければ何よりです」
エルファルはようやく美緒の手を離すと、嬉しそうに微笑んだ。
やがて馬車は、街の中心へと近づいていく。
そして――。
「あ……!」
美緒が声を上げた。
遠くに、見覚えのある建物が見えてきた。
夜空へ向かってまっすぐ伸びる、赤い尖塔。
二つの月を背にして立つその姿は、どこか幻想的で、静かな威厳をたたえていた。
(あれが……魔法学園……)
美緒の胸が、どくんと鳴る。
これから、あそこで学ぶ。
魔法を。
この世界のことを。
そして――いつか、呪いを解くために。
馬車がゆっくりと高度を下げていく。
赤い尖塔が、少しずつ大きくなっていく。
やがて、石造りの広場が見えてきた。
魔法の灯りが、柔らかく足元を照らしている。
ペガサスが翼を大きく広げ、馬車は静かに地面へ降り立った。
「到着いたしました」
扉が開く。
美緒は一度だけ深呼吸をした。
怖くないと言えば、嘘になる。
知らない場所へ行くのだから、不安はある。
けれど――。
胸の奥には、それ以上に大きな気持ちがあった。
知りたい。
学びたい。
絶対に、自分にできることを見つける。
美緒はバスケットを抱え直した。
その中には、サラが焼いてくれたパンが入っている。
温かな故郷の味と、たくさんの思い出。
それを胸に抱くようにして、美緒は馬車から一歩、外へ踏み出した。
冷たい夜の空気が頬を撫でる。
美緒は小さく息を吸い、顔を上げた。
「……よし」
そして、一歩――。
少しの不安と、それを遥かに上回る大きな期待を胸に。
美緒はついに、魔法学園の地を踏んだ。
その背後で、黒猫のリクが静かに続く。
『――ようこそ、ミオ』
美緒の魔法使いとしての日々が――今、始まる。




