双月の塔と聖なる光2
エルファルに続いて、建物の中を歩いていく。
高い天井。
淡く光る魔法灯。
長い廊下の壁には、歴代の塔主らしき人物の肖像画や、見たことのない魔法道具が飾られている。
その一枚の前で、リクがほんの少し足を止めた。
「リク?」
『……なんでもない』
そう言って歩き出す。
やがてエルファルは、一枚の大きな扉の前で足を止めた。
「ミオさん」
「はい」
「先ほどお話しした、属性検査をこちらの部屋で行います」
エルファルが扉を開く。
「どうぞ」
中には数人の検査員が待っていた。
美緒が入ると、全員が丁寧に頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
*
そのうちの一人が歩み寄り、台の上に置かれた透明な珠を示した。
「では、検査を始めますね」
珠は、内側に淡い光を宿している。
「こちらの魔水晶に、両手で触れてください」
「はい……」
美緒は少し緊張しながら、そっと両手を伸ばした。
「こう、ですか?」
指先が触れた――その瞬間。
「……っ!」
魔水晶が、まばゆい白銀の光を放った。
部屋いっぱいに、白い光が弾ける。
「な……!」
息を呑んだ次の瞬間。
魔水晶は激しく明滅し――。
ピシッ。
「え……?」
魔水晶に一本のひびが走った。
そして――
魔水晶は細かな光の粒となって砕け散った。
「魔水晶が……!」
検査員たちが息をのむ。
部屋が静まり返る。
美緒も、呆然と自分の手を見つめていた。
「わ、私……っ?!」
エルファルは答えなかった。
ただ、静かに美緒を見つめている。
そして、静かに微笑むと、懐から細身の短剣を取り出した。
「エルファルさん?」
そのまま、自らの手のひら短剣で切った。
赤い血が一筋、流れる。
「エルファルさんっ!?」
美緒の顔から血の気が引く。
「いったい、何を……っ!」
美緒が駆け寄ろうとした、その瞬間だった。
その身体から、白銀の光が走る。
「……え?」
光はまっすぐエルファルの手へ伸び、その傷を包み込む。
温かく、柔らかな光。
やがて光が静かに消えていく。
エルファルの手には――傷ひとつ残っていなかった。
美緒は息を呑む。
「……治っ、た……?」
エルファルは自分の手を静かに見つめ、それから検査員たちへ視線を向けた。
「あなたたちも、見ましたね」
エルファルは静かに続けた。
「これが――聖属性の力……。
伝承の、とおりです」
血を止めるだけではない。
傷を癒すだけでもない。
「傷そのものを、最初からなかったことにする力」
そして、砕け散った魔水晶へ視線を向ける。
「しかも……魔水晶を砕くほどの力」
エルファルは美緒のもとへ歩み寄ると、そっとその手を取る。
「女神リーナ様のご神託どおり……」
エルファルの瞳が、静かな驚きと確信に揺れる。
「本当に、聖属性の力を持つ者が現れたのですね」
「エルファル……さん」
美緒は不安そうに彼女を見上げた。
エルファルは、そんな美緒の手をそっと握ったまま言った。
「……ミオさん」
その声は、先ほどまでとは少し違っていた。
静かで、それでいて重大な何かを秘めている。
「あなたに、お話ししなければなりません」
エルファルは、まっすぐに美緒を見つめた。
その瞳に、深い覚悟が宿る。
「この世界に残された――古の呪いを」
美緒の胸が、大きく鳴った。




