塔からの使者3
――偉大なる賢者。
エルファルは、明らかに敬意を込めた眼差しを向けている。
『……ほう? お前自ら来るとはな、エルファル』
エルファルは柔らかく微笑む。
「はい。女神リーナ様より、ご神託がありましたので」
そう言って、美緒へ視線を移す。
「それに……私自身、ミオさんにお会いしたかったのです」
美緒は思わず目を丸くした。
「え、あ、あの……エルファルさん」
「はい?」
「あの……もしかして、リクと話せるんですか!?」
エルファルはくすりと笑う。
「はい」
あまりにもあっさりと答えられ、美緒は思わず瞬きをした。
エルファルは穏やかに頷くと、胸元に手を添える。
「これは、塔主と、リクヴァイン様が認めた者。
そして、あなたにのみ許された能力です」
「そう……なんですね」
「ふふ。リクヴァイン様?
今は、リク、と呼ばれているのですね?」
『……ああ』
リクはふいっと横を向く。
エルファルは微笑むと、再び美緒へ向き直った。
「では、ミオさん」
「はい」
「次の満月の晩に、お会いしましょう」
その言葉を聞いた瞬間、美緒の胸が小さく高鳴った。
いよいよだ。
魔法使いたちが集うという、双月の塔。
「では――リクヴァイン様」
エルファルはリクへ向き直り、優雅に一礼した。
「御前、失礼いたします」
『ああ』
その瞬間、エルファルの足元に淡い光が集まった。
風がふわりと巻き上がる。
「それでは、満月の夜に」
エルファルは微笑む。
そして、その姿は淡い光とともに、つむじ風の中へ静かに消えていった。
あとに残ったのは、夕暮れの静かな村。
残された木の葉だけが、からからと地面を転がっている。
「……行っちゃっ、た」
美緒はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
やがて、ふうっと息を吐く。
「次の満月の晩、かぁ……」
そして、ふと何かを思い出したようにリクを見る。
「って、今さらだけどリク」
『なんだ?』
「何か準備しておくものってないの?」
『ないぞ』
「ないの?」
『必要なものは、すべて塔にあるからな』
「そうなんだ……」
美緒は少し考え、それから恐る恐る尋ねた。
「あの……授業料とかは……?」
リクは、きょとんとした顔で美緒を見る。
そして――。
『ははははっ!』
珍しく声を上げて笑い出した。
「な、何よぉ!」
『お前は何を言ってるんだ?』
「だって学校なんでしょ!? お金とか、必要なんじゃ……」
『何も心配することはない』
リクはしっぽをゆらりと揺らした。
『身一つで行け』
「……そっか」
美緒は胸を撫で下ろす。
「なら、良かった!」
――この世界の魔法使いたちが集う学び舎。
そこへ、自分は行く。
どんな場所なのだろう。
どんな人たちがいるのだろう。
自分は、本当にそこでやっていけるのだろうか。
楽しみな気持ちは、もちろんあった。
けれど――不安もある。
正直に言えば、とても怖い。
けれど。
美緒は小さく息を吸った。
「……うん」
小さく呟く。
(目の前のことを、ひとつずつ)
それは、自分にできることを探すこと。
(頑張るって、決めたんだから!)
美緒はぎゅっと拳を握った。
「……よし」
その声に、リクが静かに目を細める。
『戻るか』
「うん!」
次の満月は、もうすぐそこまで来ていた。




