塔からの使者2
「きゃあっ!」
突如として現れたつむじ風が、石畳の上で静かに回り始める。
美緒は腕で顔を覆う。
やがて風が静まると、その中心に、一人の女性が立っていた。
白銀の長い髪。
淡い光を帯びた白のローブには、細やかな銀糸の刺繍が静かに輝いている。
その瞳には、不思議な穏やかさが宿っていた。
女性は、美緒の前まで歩いてくると立ち止まる。
「あなたが、ミオさんですね?」
美緒は、思わず一歩後ずさった。
「あ……あなたは……?」
女性は微笑むと、胸元へ手を添え、優雅に一礼する。
「突然の訪問、失礼いたしました。
私は、双月の塔を司る者――エルファルと申します」
「そ、双月の塔の……エルファル、さん……?」
美緒の胸が高鳴った。
双月の塔。
女神リーナが言っていた、魔法使いたちの学び舎。
自分を迎えに来る者がいる。
その言葉が、現実になったのだ。
エルファルは懐から一通の封筒を取り出した。
純白の封筒には、二つの月を象った紋章。
封蝋には、淡い青白い光が宿っている。
「ミオさん」
エルファルは両手でそれを差し出した。
「こちらが、双月の塔への許可証になります」
美緒は息をのんだ。
「許可証……」
「はい。次の満月の夜、お迎えに参ります」
美緒の喉が、ごくりと鳴る。
震える手を伸ばし、封筒に指先が触れた瞬間――。
封蝋の紋章が淡く輝いた。
ぱあっ、と白い光が弾ける。
光は美緒の指先から腕へ、そして身体全体へと静かに広がっていった。
「えっ……?
な、なに……これ……!」
白銀の光が美緒を包み込み、やがて小さな光の粒となって、その身体の中へ吸い込まれていく。
最後の一粒が消え、辺りは、何事もなかったかのような静けさを取り戻した。
美緒は呆然と自分の手を見つめる。
「い、今のは……?」
エルファルは満足そうに頷いた。
「これで、あなたは塔と正しく繋がりました」
そして、柔らかな笑みを浮かべる。
「では、お待ちしておりますね。ミオさん。
ええ、もちろん、あなたのパートナーもご一緒に」
その声に、ほんの少しだけ懐かしさが混じった。
そしてエルファルは、足元へ視線を落とす。
そして目を細めると、静かに一礼した。
「ご無沙汰しております――偉大なる賢者よ」
『……エルファル』
リクの声が、低く響く。
美緒は目を丸くした。
「……えっ?」
夕暮れの村に、風が一陣、静かに吹き抜けた。




