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天の音
ふと百人一首の一部を頭に思いうかべる。
『天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ をとめの姿しばしとどめむ』
彼女は耳が良かった、隣に座るだけで僕の心音を聞き取る程だった、彼女は世界の全てがうるさかったのだろう、だから空に導かれた。
彼女と僕の関係はただ旅先であった人だ。
「大丈夫ですか?」
ロープウェイに乗り高さに震えそうな体を抑えていると話しかけられ、世間話をした……ただそれだけ。
耳がよく困っている人は音で分かるらしい。
「私、最後はここが良かったんです」
僕は心配になり一緒にロープウェイを降り、ラーメンを食べた。
その後も一緒に山に登った、山頂に着くと彼女は空の音に導かれ僕の前から姿を消した。
夏が始まる少し前の不思議な出会いだった。
きっと、彼女は天女だったのだろう




